このふたつが、ブランドが目指すコミュニケーションの実現には、いつの時代にも欠かせないものであり、その両者の間で思考を往復させながら解決方法を見出していく。それこそがもっとも重要なプロセス。広告づくりは、まさに左脳と右脳のぶつかり合いなのだ。
そんなテーマで展開されるのが本書。フリーのクリエイティブディレクター、伊東紅一さんとビーコンコミュニケーションズ、プランニングディレクターの前田環さんの共著、「売れる広告」である。

「売る広告」といえば、かのデイヴィッド・オグルヴィが書いた名著であるが、こちらはそれに対抗してというわけではないだろうが「売れる広告」。「売る」と「売れる」。なんとなく時代の移ろい・広告を取り巻く環境の違いを考えさせられるタイトルで、まずは興味を引かれた。
とはいえ、内容はいたってオーソドックスだ。昔から変わらない広告の基本中の基本を押さえた方法論、ある意味、これから広告に携わる人にとっての入門書としても十分に役立てられる。
具体的に紹介すると、
1部が【ロジックパート】
・プランニングの基本戦略立案
・ターゲットの設定
・インサイトの見つけ方
・購入決定プロセス
・ブランドの使命
・クライアント・ブリーフから戦略構築
2部が【マジックパート】
・クリエイティブアイデアの開発1〜3
3部が【ネット化とグローバル化の時代に向き合う】
・広告コミュニケーションの今
・変わるものと変わらないもの
その中でも、特にいつの時代にも変わらないものと言えるのは、「インサイト」の存在だろう。彼らも最後は「インサイト」に行き着くと言っている。
ただし、商品やサービスの「インサイト」自体は、時代時代で微妙に変わってくる。というか機微がわからなければ、ターゲットの心を捉えることはできない。
インサイトとは、ひと言で言えば「行動を起こす心のツボ。」
「確かにそう言われれば、そうだよね。気づいてなかったけど、わかるわかる!」そんな感じだろうか。
適切なインサイトを見つけられたら、クリエイティブ作業の大半は終わったっと言ってもよい。
それほど重要な存在であるし、そんなインサイトを見つけるために、アドマンは心血を注ぐ。
これはというインサイトを見つけられた時、まさにアドマンはアドマン冥利に尽きるということではないだろうか。
デジタルの時代になって、特にインターネットの進化によりさまざまな手段が登場している昨今。だからこそ、見失ってはいけない本質が重要になってくる。
「売れる広告」。広告の是非は別としても、コミュニケーションの本質を見極めることの重要性を、あらためて教えてくれる1冊である。