アドマン(元)のブログ「広告会社~バーチャルとリアルの狭間で」

名古屋の広告会社に働いていた元アドマンのブログ。広告とインターネットに携わる男が、時代の転換期で日々感じること、気づくこと、体験したこと、また、読んだ本や見た映画の感想などを思いのままに書き綴ります。

「誰かの犠牲で成り立つ経済を、終わらせよう」持続可能な資本主義。

鎌倉投信の取締役、新井和宏氏が書いた「持続可能な資本主義」を読んだ。

持続可能な資本主義

本の帯、しおりに記された言葉、「誰かの犠牲で成り立つ経済を、終わらせよう」。

確かにそうだ。心からそう思う。
けれど、世の中はなかなか変わっていかない。
それどころか、悪くなっているのではないか。
そう思わざるを得ないニュースが連日、目から耳から飛び込んでくる。

その原因の根源のひとつが、資本主義の限界。
誰かが勝てば誰かが負ける。資本主義の本質でもある。

しかしながら、そんな中にも、新しい芽が少しずつだけれど芽生え始めているのも確かだ。

たとえば、本書「持続可能な資本主義」に登場するいくつかの企業もそうである。
もっと言えば、鎌倉投信の存在そのものが何よりの証なのかもしれない。

著者である新井氏は、外資系の投資運用会社で莫大なお金を扱っていたもののストレスから大病を患い退職。
たまたま出会った1冊の本「日本でいちばん大切にしたい会社」の考え方に賛同し、「いい会社」の持つ信頼性をベースにした、これまでにない投資信託会社を立ち上げる。それが鎌倉投信である。

何より驚かされること。
フローよりストックを大切にする。
短期利益より長期の持続可能性を重視する。
何より社員の、関わる人の幸せをいちばんに考える。
そんな視点を持った企業にのみ投資をしてきた結果、
立ち上げから今日まで驚くほどの投資利益を上げしまったのだ。
その事実こそが、世の中からそれらの企業が大きな共感と高い評価を受けていることを物語る。

鎌倉投信の投資先選定基準は独特だ。
財務諸表や損益計算書は見ないわけではないが、それよりも重視するのは、実際に企業に訪問し、経営者に会い、話を聞いた直感。時にはその話が確かかどうか、アポなしで会社を見に行くこともあるそうだ。
そうしてこれは間違いないという会社をピックアップする。
そして新井氏はこう断言する。「いい会社は数値化できない」と。

厳しい眼で選ばれた企業の名前を並べてみる。
カゴメ、ヤマトグループ、サイボウズ、ツムラ、マザーハウス、ユーグレナ…

それぞれが「いい会社」である理由は本書をぜひ読んでもらいたいが、私がそれらの会社に共通して思うことは、いい会社には間違いなく「いい経営者」の「いい価値観」が存在することである。
そういう意味で、これからの時代は、儲けることに長けた経営者より、社会に対する優しい眼差しを持った経営者が求められるのではないだろうか。

持続可能性=サステナビリティ。ともするとバズワードとなりがちなワードではあるが、今一度、経営の中に、事業の中に据えることで、新たな成長のきっかけを創れるのかもしれない。

誰かの犠牲で成り立つ経済を、終わらせよう。そう考える経営者がひとりでも増え、そう考える会社が一社でも増えれば、今よりきっと幸せな世の中になるはずだ。そんな思いが確信に変わる、そんな1冊に出会った。


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人と人、心と心をつなぐビール。ベアレン醸造所。

ベアレン醸造所株式会社専務、嶌田洋一氏が書いた「つなぐビール〜地方の小さな会社が創るもの」を読んだ。

つなぐビール

ベアレン醸造所は盛岡にある、クラフトビール製造会社。2001年創業だ。

嶌田氏と共同経営者の木村氏の出会いは10年前にさかのぼる。
当時二人はそれぞれ、盛岡地区の協和発酵とキリンビールの営業担当。ライバル会社であったものの妙に気が合い、二人の環境が変わった後も情報交換を続けていたという。

そんなある日。木村から「一緒にビール会社を作らないか」と誘われる。安定した環境を捨てることに不安はあったものの木村の熱い想いに打たれ、新たな船を漕ぎだすことになった。

当時はちょうど地ビールブームが終わった後で、ブームに乗って雨後の筍のように誕生した各地の地ビール会社が、経営不振で続々と倒産、閉鎖されていた頃。地ビールでの起業のタイミングとしては最悪の状況だっただろう。しかし逆に言えば、厳しい環境だったからこそ、地に足のついた経営につながったのかもしれない。

とはいえ、今日までの道のりは平坦どころか、さしずめジェットコースターといった様相。

中でも最大の難関は、醸造所のタンクが爆発して醸造担当だった社員が命を落とした時だ。

不慮の事故だったとはいえ、当然経営陣には管理不行き届きとしてマスコミから非難が集中する。
それより何より、甚大だったのは、家族ともいえる社員を死なせてしまったという精神的苦痛だ。
当時を回想するシーンは、読んでいても心が痛くなるほどだった。

しかしそのどん底ともいえる状況をなんとか乗り越えたこと、
その教訓を忘れずその後さまざまな社内改革に取り組んだことで、
あらためてベアレン醸造所の快進撃がはじまる。

事故を契機に、何を最初に取り組んだか。
それは、職場の安全等を盛り込んだ「経営理念」の策定だった。
その経営理念を核としたことで、やるべきことが明確になり、ブランドが形作られていく。
そのあたりのくだりは、中小企業の経営者にとって参考にできるところが多い。

私は、21世紀に入って成長を遂げた企業に共通する成功法則があると考えている。
それはマスを相手にビジネスをするのではなく、コアなコミュニティを組織化することに長けている点だ。
アウトドア用品のスノーピークしかり、先日紹介した気仙沼ニッティングしかり。

ベアレン醸造所で、それに相当するのが〈よ市〉ジョッキクラブだった。

盛岡の材木町で、冬を除いた毎週土曜日に開催されるイベントでベアレン醸造所はビールを提供する。
その時に使用するジョッキを買ってもらい預かり制にしたことで、熱心なファンを一気に増やすことになった。
と同時にファン同士のコミュニケーションも活発になり、この日を楽しみにする人たちが、ベアレン醸造所の重要な営業マンの役割を果たしてくれるようになったのだ。

こういうことは意図してできることではない。
お客様とのコミュニケーションを大切にしたい、その強い想いが自然にその方向へ導いていったと言えるのではないか。

最後に。つなぐビールという本書のタイトルであるが、
人と人、100年前の伝統、地元への愛、亡くなった社員の思い、ビールがいろいろなものをつないでいる。
そんな思いが込められているのだそうだ。

つなぐ。まさに時代のキーワードである。

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気仙沼ニッティング物語。応援したくなる会社の作り方。

御手洗珠子さんが書いた「気仙沼ニッティング物語〜いいものを編む会社」を読んだ。

気仙沼ニッティング物語

震災地、気仙沼発のニットブランド「気仙沼ニッティング」。
メイン商品の手編みのアランカーディガンがなんと1着15万円!それでいて、注文待ちの人が現在200人以上いるという。

ちょうど昨夜、カンブリア宮殿で取り上げられ、ご覧になられた人も多いのではないか。今日あたりはサイトへの来訪者が一気に増えていることだと想像する。

その気仙沼ニッティングの社長が本書の著者、御手洗さんである。動いている御手洗さんをテレビではじめて観たが、その印象を一言で言うと「聡明な人」。

それもそのはず、最終学歴は東京大学。新卒でコンサルティング会社のマッキンゼーに入った、いわゆる超エリートだ。
しかし、その会社を2年少しで辞め、今度はブータン政府に雇われ初代首相フェローとして勤める。
そして任期切れを間近に控えた頃、東北の大震災が起こった。

被災地のために何かできることをしなければと帰国。
次の道を模索していた時、以前から知り合いだったという糸井重里さんに「編み物の会社を立ち上げたい、ついては社長をやってみないか?」と誘われ、引き受けることになったのだ。

御手洗さんは、まだ31歳。大企業でいえば、やっとビジネスのことがわかってきた程度の若輩であるが、本書を読んでもテレビを観ても、この人にとっては年齢はほとんど関係ない。
逆に言えば、若さが武器となって、回りが巻き込まれていく、そんな根っからの才能を持った女性という印象を抱いた。

もちろん、糸井さんのバックアップもあるし、年長者のサポーター、編み手に恵まれたこともあるだろう。しかし、それを差し引いても、彼女の事業を俯瞰して見る能力、実行力、そしてそのベースにある、ぶれない想いの強さは余人をもって替えがたいのだ。

御手洗さんは気仙沼で起業するメリット・デメリットを本書でこう記している。

メリット
1.周りの人に助けてもらえる
2.多くの人にとって未知な分、興味を持ってもらいやすい
3.賃料が安い
4.地域の街の中で存在感を持ちやすい

デメリット
1.大消費地から遠い
2.人が少ない?(働き手の確保が難しい)

メリットを活かし、デメリットを克服し、企業をどう軌道に乗せて行ったか。
時間的には短いが、かなり濃密な物語がそこにある。

彼女は自身の仕事を「種を蒔き、木を育て、森を作るような仕事」と話す。

立ち上がったばかりの企業としては、もちろん利益を上げて会社を存続させることが最重要課題だろうが、そのあたりは眼中にもないように思える。見据えているのは、もっと先、大きなビジョンが彼女を駆り立てているのだ。それがこの仕事観につながっているのではないだろうか。

極め付けは本書にも登場するこんなエピソード。

事業を急成長させた、とあるIT企業社長からこう言われたという。

「すでにそこそこ名前は知られているから、セーターやカーディガンにこだわらず、いろんなものにブランドをつければオンラインで売れる。それでSEO、 SEMをガンガンにやれば、一気にスケールアップできるよ!」

それに対して彼女はこう考えた。

「確かに1,2年は売上が急増するかもしれない。けれどそれでは100年続く事業には育てられないでしょう。それは、気仙沼ニッティングがこれまでお客さんから得てきた信頼を、短い時間で使い切るような話だからです。信頼は、築くのには時間がかかりますが、なくなる時はあっという間です。」

どうだろう、こう言い切れる経営者がどれほどいるだろう。

こんな彼女だから、気仙沼ニッティングの今日がある。
想いに、年齢も経験も関係ない。その想いへの共感が時代のキーワードとなりつつある今、今後の気仙沼ニッティングがますます楽しみになってきた。

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