アドマン(元)のブログ「広告会社~バーチャルとリアルの狭間で」

名古屋の広告会社に働いていた元アドマンのブログ。広告とインターネットに携わる男が、時代の転換期で日々感じること、気づくこと、体験したこと、また、読んだ本や見た映画の感想などを思いのままに書き綴ります。

値下げは誰も幸せにしない。だからこそ今、「顧客価値創造プライシング」。

経営コンサルタント、そしてビジネスブレークスルー大学教授でもある菅野誠二氏の書いた「値上げのためのマーケティング戦略」を読んだ。



売価と販売数量の関係は通常反比例する。多くの日本企業は売上が減ると価格を下げて販売数量を確保しようとする。これが本当に利益拡大につながっているだろうか。

こんな問題提起でスタートする本書、実はこの問題は営業の評価制度が「トップライン:売上、受注額」中心であることに起因すると菅野氏は言う。

現場は価格の値引きやリベートを乱発してでも売上を上げようとする。この受注至上主義が、売上拡大すれども利益減と言う事態を招いてしまうのだそうだ。

受注至上主義の会社は価格戦略下手企業とほぼイコール。つまりマーケティング観点での値決めができていないから、どうしても値引き前提の押し込み営業になる。特に締め前となると、あと数百万、なんとしてでも売りあげて来いと利益を度外視しての上長の檄が飛ぶ。一度値引きすると値引きぐせがついて、二度ともとの値段には戻せない。悪循環が経営そのものを追い詰めていくことにもなりかねない。

菅野氏は、そんな価格戦略下手な企業に対して、本書のテーマでもある「顧客価値創造プライシング」という概念を紹介している。

安売りをするわけでなくむしろ値上げをしても、買う人には痛い!と感じさせない、最適な値決めの考え方だ。

マーケティングは、お客様へ提供する価値を創造すること。そう考えれば、顧客にとっても自社にとってもWin to Winとなる値決めの法則があるはず、実際、今成長している企業は戦略的な値決めを実践していると菅野氏。

本書では適正価格を前提とした最適な価値創造のための、ターゲット設定の仕方から価値創造の考え方、価値の伝え方などを短いストーリーを交えてわかりやすく教えてくれている。
正直ここまでできる企業は少ないとは思うが、そのエッセンスを知るだけでも利益に対するこだわりが格段も上がり、経営に良い影響を及ぼすことにつながるように思う。

菅野氏は無意味な値引きが行われてしまう理由のひとつとして、欧米の企業では当たり前の存在であるCMO(チーフマーケティングオフィサー)が日本の企業ではほぼ存在しないことを挙げている。

少子高齢化、縮小していく市場、覆せないこの先の国の姿を考えれば、マーケティング的な資質が経営者の必須の能力になることは間違いないし、CMOは経営者のますます重要なパートナーとして存在感を増すであろう。

価格競争は、行き着くところ社員も顧客も幸せにしない。経営者は、CMOの必要性、そして価値創造を前提とした値決めの重要性を今こそ学ぶ時ではないだろうか。

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顧客との関係は広告ではなく対話でつくる。アフターアクションマーケティング。

マーケティングコンサルタント、辻井良一氏の書いた「アフターアクションマーケティングのすすめ」を読んだ。



プロフィールによれば、辻井氏は「売れる仕組みづくり」をスローガンにしてさまざまな企業のマーケティングプロモーション戦略に携わり、日本初の「ネットでFIREキャンペーン」などを手掛けたそうだ。こう書くとここまでの道のりは至極順調だったように見えるが、本書を読むかぎり紆余曲折の日々だったよう。広告業界の盛衰と自身の体験のくだりは広告の変遷を知る上でも非常に興味深い。

さて肝心の本書の内容であるが、タイトルにもなっているように買って頂いた後のお客さまとの継続的な関係づくりにこれからのマーケティングの肝があるという自身の考え方を展開している。

AIDMAやAISASという広告会社のマーケティング発想は、ACTIONがゴールとなっている点で、すでに時代に合わなくなっているというのはもはや常識であるが、それではこれからのマーケティングはと言う意味で辻井氏は「アフターアクションマーケティング」というキーワードを呈示した。

アフターアクションマーケティングで辻井氏が重要視するのは「WEBサイト」と「コミュニティ」。

まぁこうしてみると正直、辻井氏の考え方はオーソドックスすぎていささか面白みに欠けるという感もある。しかし、それだけに一過性の考え方でなく、あくまで顧客との関係について押さえるべき基本を押さえているという点でそのまま実践できる考え方だ。

特に私が共感したのは、マーケティングの概念にCSRの必要性を持ち込んで展開している第5章、「企業は人柄を見られている」

辻井氏によれば、今、消費者はブランドや企業の“人柄”を見定めていると。
この会社は大げさで嘘つき。このブランドはお高くとまっていて生意気…
ソーシャルメディアの影響もあるのだろう。それだけに正直で真面目な向かい合い方が重要で、その姿勢が共感や信頼につながっていくのだ。

マーケティングの4Pや広告でいうAIDMAやAISASでどうこう考える前に、自分たちが事業と取り組む姿勢こそが、今の時代には重要であることを今一度考えなおす必要がある。

本書の最後で辻井氏は、マーケター、クリエイターとクライアントとの関係について、こう書いている。

「マーケティングの仕事、プロモーションの仕事は、課題の抽出と共有がすべてだと思っています。
課題が定まれば、策はおのずと湧いてくるものと考えています。
課題を定めるのは、クライアントとの協働作業以外に考えられません。
だからクライアントこそ仲間です。…」

クライアントとパートナー関係を結ぶことは並大抵ではないと思うが、アフターアクションマーケティングを実現する上には必須の条件かもしれない。辻井氏の実績の数々を拝見すると、なるほどこの考え方を貫いているからこその賜物とあらためて頷く次第。

インバウンドマーケティング、CRMと共通する部分も多い。これからのマーケティングの主流とも言える顧客との関係の作り方、マーケティングに携わる人、広告業界に身を置く人にとって大いに参考にできる考え方と思う。

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成長から成熟へ。新しい世の中のために広告ができること。

もと広告批評の編集長、天野祐吉さんの書いた「成長から成熟へ~さよなら経済大国」を読んだ。



この10月に急逝した天野さん。あとがきを見ると、「2013年、体験したこともない豪雨と炎暑の歪んだ夏」とある。

つまり、ほんの2か月前。肉体的にもきつい状況でまさに最後のエネルギーを振り絞るようにして、1文字1文字を綴ったのだろう、想像するだけでも心が痛む。

しかもその状況でありながら、書かれた文章はいつもながらの飄々とした天野さんらしい書き口。最後まで自らの生き方を貫いた天野さんのメッセージに「ありがとう」という思いを噛みしめながら、1ページ1ページを大切に読ませて頂いた。

60年に渡り、日本の広告業界の最前線で広告の盛衰を見守り続けた天野さん。
広告を批評するという新たなジャンルを開拓したわけだが、彼が愛される理由は、厳しい批評の言葉の裏にいつもアドマン、クリエイター、そして広告業界に注がれる優しい眼差しがあったからだと思う。

本書は、そんな天野さん自身の回顧録でもあるわけだが、それは、そのまま日本の広告の歴史年表でもある。

DDBのワーゲンの広告、糸井重里さんがコピーを書いた西武百貨店の広告、小野田隆雄さんがコピーを書いた資生堂の広告…高度成長期、広告の絶頂期にやや遅れてコピーライターとして業界に入った私にとってはまさに憧れであり、目標であり、挫折と嫉妬の材料でもあり…
あぁそんな時代もあった、あんな時代もあったと走馬灯のように当時の懐かしい思い出が甦ってきた。

しかし、現実に戻れば、今この瞬間はそんな甘いものではない。天野さんいわく成長至上主義はもう終わったのである。いつまでも夢物語を語る広告では、反感は買っても好感を持って受け止められる機会は減っていくばかりだろう。

だからこそ、天野さんの「成長から成熟へ」という言葉になる。広告も成熟しなければならない時なのだ。

この本の最後に天野さんは、30年前に哲学者の久野収先生に聞いたという「別品」の話(昔、中国の皇帝では、画家や陶芸家の等号を、一品、ニ品と呼んで格付けしていたが、審査の物差しでは測れないが、個性的ですぐれているものは「絶品」「別品」として認めていたという)を引き合いに出してこう締めている。

経済力にせよ軍事力にせよ、日本は1位とか2位とかを争う野暮な国じゃなくていい。「別品」の国でありたいと思うのです。

「別品」の国。天野さんらしく飄々とした幸せな響きではないか。ありがとう、天野さん。

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「アグリゲーター」という新たな人種が主役になる時代。

シグマクシスの柴沼俊一氏と日経ビジネス副編集長の瀬川明秀氏の共著「アグリゲーター~5年後に主役になる働き方」を読んだ。



企業の寿命はますます短くなっている。近い将来、サラリーマンは1社だけに帰属するのではなく、2社以上と仕事をするようになるのではないか。

本書ではそんなショッキングな調査データが紹介されている。会社側からみれば、以前のように社員が満足する給与を払えるだけの余裕がない。ほとんどの市場がシュリンクしていくことを考えれば、今後ますます厳しさが増すことは間違いないだろう。

そんな世の中を察知してか、組織の枠にとらわれず自由闊達に活躍する人種が増えているのだそうだ。彼らこそ、著者ふたりが「アグリゲーター」と呼ぶ新しい人種なのである。

アグリケーター。新しい価値を生み出す能力を持ち、ビジョンを持って企業内外で活躍する人々。

5年後には彼らのような働き方が主役になるとの大胆な予測も立てている著者ふたりであるが、本書でアグリゲーターが持つ思考や行動の特徴を次のように5つにまとめて掲げている。

その1:将来やってくる未来を具体的にイメージし、自分たちならどのような貢献ができるのかを考えてしまうし、プランを書かずにはいられない。

その2:既存事業の枠組みに囚われず、その瞬間に最も適切と思われる事業モデル・アプローチを設計・実行する。

その3:事業を実現するために必要な能力を見極めることができる。それを集めるだけのネットワークを持っている。

その4:状況に応じて、自分の古いスキル・成功体験、能力をいとわずに捨てることができる。

その5:強烈なビジョニング力を持っている。

どうだろうか。自分がアグリゲーターとなるにはかなりハードルが高い気もするが、要は組織に依存することなく自立して、定めた方向に向かって自身を柔軟に変えていける意思の強さがまずはこの先の働き方には必要だということだ。

5年かかるか10年かかるか…いずれにせよ、アグリゲーター的資質が企業の浮沈を左右する時代になることは間違いないだろうし、個人も企業に依存せず自身の強みを明確にして自立することが求められることになるだろう。

そういう意味で本書は、これからの生き方、働き方を占ううえで大変貴重な1冊といえる。

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顧客にクチコミされる良いネタを「1本立てる」重要性。

株式会社ハーストーリー代表取締役、日野佳恵子氏の書いた「クチコミュニティ・マーケティング実践ノート」を読んだ。



本書は「クチコミュニティ・マーケティング」「クチコミュニティマーケティング2」の続編、第3作目にあたる。

前作『「ワタシが主役」が消費を動かす』も含め、日野氏の本はほぼ全作読んでいるが、本作は久しぶりの印象が強かった。

というのも、彼女こそ、今ではソーシャルメディアで当たり前となった口コミマーケティングを20年も前から実践していた口コミのカリスマ的存在。

しかしながら、ソーシャルメディアが登場してクチコミの影響力が顕著となった今、同様の書籍も多く、やや影をひそめていた感があったからだ。

当地区では、トヨタカローラ愛知のリニューアルと同時にオープンした隣接するうめカフェを手掛け、広告会社時代、私自身も女性視点のコミュニティマーケティングの好例として注目していた。

ところがやはり本家は本家、本書は日野氏が自ら口コミ+コミュニティで命名したクチコミュニティマーケティングの集大成といってもよい、数々の実践例が輝くバイブル的1冊となった。

本書で登場する日野氏の考え方が良く理解できる文章がある。(講演会の最後でも必ず話されるそうだ)

『儲(もう)かる』という字を分解してみると…
儲=信+者
信者=人+言+者
=商売は、人から人へ、言葉で伝えられることで『儲かる』

つまり商売とは、儲けることではなく、いい評判が伝わることが大切で、そのためには人と人のつながりが重要であり、利益はその結果であると…

さらに本書で、日野氏は戦略的に口コミを起こす「黄金の4ステップ」なるものを紹介している。

ステップ1:クチコミしたくなる魅力をつくる
ステップ2:クチコミする人をつくる
ステップ3:クチコミのネタが伝わる工夫をする
ステップ4:クチコミが広がるコミュニティをつくる

中でも私が注目するのは、ステップ3のクチコミネタに対する記述。

日野氏はクチコミされる良いネタを「1本立てる」と表現している。
1本とはすなわち、他社にはない独自の強み。自分たちの立ち位置と現状を知り、どこにもない魅力を見つけ出さなければ、口コミは生まれないというのが日野氏の主張だ。

クチコミはつくるものではなく、1本立ったものが評価され共感された結果としてつくられるものなのである。

20年かけて試し継続してきた強み、誰よりも経験が豊富なこと。日野氏が実践してきた結果こそ、クチコミュニティマーケティングとして1本立っている。事実は何よりも強いことを本書が物語っている。

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