アドマン(元)のブログ「広告会社~バーチャルとリアルの狭間で」

名古屋の広告会社に働いていた元アドマンのブログ。広告とインターネットに携わる男が、時代の転換期で日々感じること、気づくこと、体験したこと、また、読んだ本や見た映画の感想などを思いのままに書き綴ります。

「日本の工芸を元気にする!」ビジョンのゴールは100年先。

中川政七商店十三代、中川政七氏が書いた「日本の工芸を元気にする!」を読んだ。

日本の工芸を元気にする

中川政七商店はは2016年、創業300年を迎えた。それを機に中川淳から中川政七に改名したことはご存知だろうか。
よって本書は、中川氏にとって改名後はじめての出版となる。

中川氏は以前、50歳で引退を明言していたが、スノーピークの山井社長に諭され撤回したと本書にある。
おそらく覚悟を決めたということだろう。本書からはこれまで以上にその想いの強さが伝わってきた。

本書は、300年を迎えるにあたり、タイトルにもある「日本の工芸を元気にする!」というビジョンを見つけそれを実践していく過程が中心に据えられている。

そのゴールは100年先。

もちろんその時は中川氏もいないわけだが、中川氏に言わせれば、それくらい時間を掛けないとこのビジョンは達成できない、それくらい壮大な構想ということなのだろう。

さて、その「日本の工芸を元気にする!」という壮大なビジョンを掲げたことで、
それまで家業中心、自社製品開発と販売を中心としていたビジネスから、そこへ工芸を商う他社のコンサルティングを事業に加えた。

ミッション、ビジョンを明確に掲げることで成長を遂げた企業の例は、枚挙にいとまがないが、中川政七商店もそれによりその後の急成長につながっていく。ビジョンの重要さをあらためて教えてくれている。

そのあたりの経緯はこれまでに出版された中川氏の本にも触れられているが、最新刊である本書では、300周年の記念プロジェクトからポーター賞受賞、上場目前で断念したこと、そして自身が社長就任後はじめて直面した既存店での売上減少。そのあたりの葛藤と新たな取り組みの可能性について詳細に記されていて興味深く読んだ。

2002年、奈良の老舗企業というレベルの中川政七商店に入社してから社長に就任し、13代中川政七を襲名するまでわずか15年。今ではその存在を知らない人はいないほど、有名な会社に育て上げた。そのスピード感たるや、自分の15年前を考えるだけでもぞっとする。

それくらい凄いことがこの短期間で実現できた理由とは何なのか?そのエッセンスが凝縮された1冊が本書である。

ブランディングとはかくあるべき、それを理論だけでなく実践で示す中川氏の本は、説得力という意味でも右に出るものはないだろう。本書を読んであらためて思った。

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田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」に学ぶ、これからの働き方。

パン屋タルマーリー店主、渡邉格氏が書いた、田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」を読んだ。

腐る経済

2013年の出版でロングセラーとなっている。
実は読んだのは初めてではなく出版早々に一度読んでいるのだが、その時はあまりピンとこなかった。
しかし今回文庫化されたのを機に再読してみて、この本が今という世の中を、「食のあり方」を通して見事に捉えた1冊であることに、あらためて気づかされた。

本書は渡邉氏の自叙伝に近い内容で、30過ぎまでどん底だった渡邉氏が亡き祖父の啓示によりパン屋を目指し、人気店に育てあげるまでの物語だ。

開店当初はそこらのパン屋と変わりのない店だったが、飛躍するきっかけとなったのが「天然菌」と「マルクス」。

天然菌の話は置いておいて、一体全体「マルクス」とはどういうことだろう?

きっかけは「イタル、おまえ、マルクスを読んでみたらどうだ?」という父の一言。
促されて資本論を読んだ渡邉さんが釘付けになったのは、マルクスが描いた当時のパン屋の状況だった。

簡単にいうとこういうことだ。

マルクスが生きていた19世紀半ばのロンドンには、2種類の製パン業者、すなわち職人技術を持った人の集まりである組合の流れを受け継ぐ「正常価格売り」と資本家が裏で糸を引く「安売り業者」があった。
「安売り業者」は、従業員を長時間労働させ、驚くほどの低価格を実現。
当然苦しむのは従業員と仕入れ業者で、とことん安く使って、資本家は私腹を肥す仕組み。

結局これが成り立つ最大の理由は、労働者自身が生産手段を持たないため、労働力を「商品」として提供するしかないこと。「商品」は買った人がどう使おうと、買い手の自由。詰まるところ、自分の「労働力」を資本家に売り渡した労働者は、資本家にこき使われる運命に身を委ねていることになるのだ。

その教訓から、渡邉氏は自前の「生産手段」を持たければいけないと気づく。
そして、できる限り近隣の農家から原材料を仕入れることで、不安定な市場に左右されず原材料を入手する手立てを実践していった。そこから渡邉氏独自のスタイルが確立されていくのだ。

このマルクスの話、現代にも十分に当てはまるのではないだろうか。
会社が安売りで利益を出すためには、経費を抑えられるだけ抑えることが重要で、最大の経費は従業員の給料と仕入れ原価であるから、自ずとしわ寄せはその両者に及んでくる。こき使われても我慢して働き続けるか、それとも自らの生産手段を手に入れるか。「安さ」か「付加価値」かとも言えるかもしれない。
それにしてもマルクスの時代から何百年も経っているのに、あまり進化していないと思うのは私だけだろうか。儲けたいという人の欲は、どんな時代にも共通なのかもしれない。読んでいてあまりに切ない気持ちになった。


さて。一念発起し5年余りの修行期間を経て、まず千葉県いすみ市で開業したパン屋「タルマーリー」。その後東北大震災を契機に岡山県真庭市に移住、当地勝山にて再オープンさせる。

パンなど買う人も少ないであろう田舎にあって、連日遠方からもお客が訪れる人気店となったタルマーリー。
店主、渡邉氏のパン作りは何から何まで常識破りである。本人曰く「不思議なパン屋」と。

まず安くない。東京ならいざ知らず岡山の田舎でも圧倒的な高価格。
週に3日休み、年に一度は一ヶ月の休みを取る。
看板メニューは「和食パン」で古民家に棲みつく天然の菌で作る「酒種」を使って発酵させる。
そして極め付け、店の経営理念は「利潤」を出さないこと。

特に気になるのが最後の「利潤」を出さない、だ。

利潤を出さなければどうやって生活を維持していくのか?と心配になる人もいるだろう。
先のマルクスの話が、ここにつながってくる。

利益を出すために、資本家は安い労働力に期待する。しかも長時間労働を厭わない労働者だ。しかし、会社というのはその逆であるべきというのが渡邉氏の経営理念。きちんと仕入れし、きちんと給料を払った上で、あえて利益を出さないように最初にきちんと計画をする。店を増やすとか売り上げを成長させ続けるとかを考えない限り、店舗とかにお金がかからない田舎であれば「小商い」で十分に成り立つというのが渡邉氏の確固たる考え方なのだ。

最近出た文庫本に収められているその後の話を読むと、少し事情も変わってきているようで、新たな拠点に移設し、クラフトビールも手がけ始めたようだ。

紙幣(利益)最優先の不自然な「腐らない経済」ではなく、人も菌も経済も自然に発酵する「腐る経済」。
経営にも生き方にもまずます「あり方」「考え方」が問われる時代になってきている。

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日本の製造業が再び世界の先頭に立つ。吉村氏が説く「日本流イノベーション」

株式会社ワークハピネス代表取締役、吉村慎吾氏が書いた「日本流イノベーション〜日本企業の特性を活かす成功方程式」を読んだ。

日本流イノベーション

吉村氏は、公認会計士として活躍したのち、JASDAQの上場審査官を経て起業、現在はイノベーション創出コンサルティングファーム、ワークハピネスを経営する異色のキャリアの持ち主。

本書は「イノベーターズ」に次ぐ、吉村氏の2冊目の著書になる。
(イノベーターズについて書いた以前の投稿)

本書のテーマはタイトルにもある通り、日本が再び世界をリードする役割を担うために必要なイノベーションについて書かれている。

ご承知の通り、日本の製造業は「失われた20年」とも称されるように、21世紀に入りアメリカを中心としたITを活用した企業の隆盛により大きく遅れをとった。その大きな理由のひとつが、ものづくりにこだわるあまり、過剰な品質や機能の追求に走り、顧客が求める製品を提供できなかったことにある。

しかしその20年に及ぶ停滞した状態を脱し、再び今上昇に転じる大きなチャンスを迎えているというのが吉村氏の主張。

そのチャンスを現実なものにするのが、AI、IoT、ロボット、3Dプリンターといった急速に進化しつつあるIT技術。そしてその技術が製造業のリアルな現場を劇的に変えるということだ。

特に大きく期待されているのが、

・AIとロボットによるさまざまなサービスの無人化
・IoTによるあらゆるオペーレーションの最適化

以上のふたつだ。
課題先進国と言われる日本の、特に「人手不足」「生産性向上」という重要課題を解決するためのソリューションがビジネスの命運を分ける。

そのソリューションに対して、本書での吉村氏の提言のひとつを紹介する。


「製造業は工場の「完全無人化」と「クラウド化」へのロードマップを描け

第四次産業革命の中、日本の製造業がやらなければならないのはAI、IoT、ロボット、3Dプリンターといった汎用技術を駆使した「生産性イノベーション」だ。マーケティング、研究開発、購買、生産、販売、アフターサービスといったビジネスのバリューチェーンの全領域にAIやロボットをフル活用して労働生産性に革命をもたらすことだ。これは日本の製造業がサバイバルするための規定演技だといえる。効率の良い会社が生き残り、不効率な会社は消滅する。企業の効率を高められるチャンスが全企業に平等に到来しているのだ。先んじてAIやロボットを活用する企業がこのチャンスをものにして飛躍するだろう。

以上。


生産人口が減少に転じた今、製造現場での人手不足はこの先も好転することはないだろう。となればロボットの導入はもはや必然。
それによりロボットが人の仕事を奪うことは間違いないが、前向きに考えれば、人への負荷が大きい単純労働、肉体労働をロボットが代替してくれるともいえる。人はより創造性の高い仕事に打ち込むことができるのだ。人とロボットの協働、それこそがこれからの時代のキーワードになる。

その際に重要になるのが経営者の価値観であるが、“人の幸せのためにこそ、AIやロボットを活用する”そういったビジネスの価値観がより問われるようになるのではないだろうか。言葉は適切ではないかもしれないが、人件費を削減するためにロボットを導入すればもっと利益が上がる。そんな儲け至上主義の経営者は早晩市場からの退場を命じられることは間違いない。

上記を含め、本書は「どのようにすれば日本の市場でイノベーションが生み出せるか」、考え方から具体的な方法論まで、吉村氏の知見がフルに発揮された見事な提言書となっている。

いずれにせよ出発点となるのは、企業の使命。具体的に言えば、「どのようにして世の中のためになることができるか」、そしてそれを実現する「組織体としてのミッション」である。

つまり、AIやロボット、IoTはあくまで手段であって、「何のために」という目的が明確であることがそれ以上に重要であるという認識。そこを間違えると宝の持ち腐れにもなりかねない。

時代は大きな転換点にある。経営者に限らず、一個人としても、まずはその認識を自分ごとにすることからはじめなければならない。そういった意味での価値観の入れ替えができるかに成否がかかっている。そのために非常に役に立つ1冊だと思う。

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「誰かの犠牲で成り立つ経済を、終わらせよう」持続可能な資本主義。

鎌倉投信の取締役、新井和宏氏が書いた「持続可能な資本主義」を読んだ。

持続可能な資本主義

本の帯、しおりに記された言葉、「誰かの犠牲で成り立つ経済を、終わらせよう」。

確かにそうだ。心からそう思う。
けれど、世の中はなかなか変わっていかない。
それどころか、悪くなっているのではないか。
そう思わざるを得ないニュースが連日、目から耳から飛び込んでくる。

その原因の根源のひとつが、資本主義の限界。
誰かが勝てば誰かが負ける。資本主義の本質でもある。

しかしながら、そんな中にも、新しい芽が少しずつだけれど芽生え始めているのも確かだ。

たとえば、本書「持続可能な資本主義」に登場するいくつかの企業もそうである。
もっと言えば、鎌倉投信の存在そのものが何よりの証なのかもしれない。

著者である新井氏は、外資系の投資運用会社で莫大なお金を扱っていたもののストレスから大病を患い退職。
たまたま出会った1冊の本「日本でいちばん大切にしたい会社」の考え方に賛同し、「いい会社」の持つ信頼性をベースにした、これまでにない投資信託会社を立ち上げる。それが鎌倉投信である。

何より驚かされること。
フローよりストックを大切にする。
短期利益より長期の持続可能性を重視する。
何より社員の、関わる人の幸せをいちばんに考える。
そんな視点を持った企業にのみ投資をしてきた結果、
立ち上げから今日まで驚くほどの投資利益を上げしまったのだ。
その事実こそが、世の中からそれらの企業が大きな共感と高い評価を受けていることを物語る。

鎌倉投信の投資先選定基準は独特だ。
財務諸表や損益計算書は見ないわけではないが、それよりも重視するのは、実際に企業に訪問し、経営者に会い、話を聞いた直感。時にはその話が確かかどうか、アポなしで会社を見に行くこともあるそうだ。
そうしてこれは間違いないという会社をピックアップする。
そして新井氏はこう断言する。「いい会社は数値化できない」と。

厳しい眼で選ばれた企業の名前を並べてみる。
カゴメ、ヤマトグループ、サイボウズ、ツムラ、マザーハウス、ユーグレナ…

それぞれが「いい会社」である理由は本書をぜひ読んでもらいたいが、私がそれらの会社に共通して思うことは、いい会社には間違いなく「いい経営者」の「いい価値観」が存在することである。
そういう意味で、これからの時代は、儲けることに長けた経営者より、社会に対する優しい眼差しを持った経営者が求められるのではないだろうか。

持続可能性=サステナビリティ。ともするとバズワードとなりがちなワードではあるが、今一度、経営の中に、事業の中に据えることで、新たな成長のきっかけを創れるのかもしれない。

誰かの犠牲で成り立つ経済を、終わらせよう。そう考える経営者がひとりでも増え、そう考える会社が一社でも増えれば、今よりきっと幸せな世の中になるはずだ。そんな思いが確信に変わる、そんな1冊に出会った。


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人と人、心と心をつなぐビール。ベアレン醸造所。

ベアレン醸造所株式会社専務、嶌田洋一氏が書いた「つなぐビール〜地方の小さな会社が創るもの」を読んだ。

つなぐビール

ベアレン醸造所は盛岡にある、クラフトビール製造会社。2001年創業だ。

嶌田氏と共同経営者の木村氏の出会いは10年前にさかのぼる。
当時二人はそれぞれ、盛岡地区の協和発酵とキリンビールの営業担当。ライバル会社であったものの妙に気が合い、二人の環境が変わった後も情報交換を続けていたという。

そんなある日。木村から「一緒にビール会社を作らないか」と誘われる。安定した環境を捨てることに不安はあったものの木村の熱い想いに打たれ、新たな船を漕ぎだすことになった。

当時はちょうど地ビールブームが終わった後で、ブームに乗って雨後の筍のように誕生した各地の地ビール会社が、経営不振で続々と倒産、閉鎖されていた頃。地ビールでの起業のタイミングとしては最悪の状況だっただろう。しかし逆に言えば、厳しい環境だったからこそ、地に足のついた経営につながったのかもしれない。

とはいえ、今日までの道のりは平坦どころか、さしずめジェットコースターといった様相。

中でも最大の難関は、醸造所のタンクが爆発して醸造担当だった社員が命を落とした時だ。

不慮の事故だったとはいえ、当然経営陣には管理不行き届きとしてマスコミから非難が集中する。
それより何より、甚大だったのは、家族ともいえる社員を死なせてしまったという精神的苦痛だ。
当時を回想するシーンは、読んでいても心が痛くなるほどだった。

しかしそのどん底ともいえる状況をなんとか乗り越えたこと、
その教訓を忘れずその後さまざまな社内改革に取り組んだことで、
あらためてベアレン醸造所の快進撃がはじまる。

事故を契機に、何を最初に取り組んだか。
それは、職場の安全等を盛り込んだ「経営理念」の策定だった。
その経営理念を核としたことで、やるべきことが明確になり、ブランドが形作られていく。
そのあたりのくだりは、中小企業の経営者にとって参考にできるところが多い。

私は、21世紀に入って成長を遂げた企業に共通する成功法則があると考えている。
それはマスを相手にビジネスをするのではなく、コアなコミュニティを組織化することに長けている点だ。
アウトドア用品のスノーピークしかり、先日紹介した気仙沼ニッティングしかり。

ベアレン醸造所で、それに相当するのが〈よ市〉ジョッキクラブだった。

盛岡の材木町で、冬を除いた毎週土曜日に開催されるイベントでベアレン醸造所はビールを提供する。
その時に使用するジョッキを買ってもらい預かり制にしたことで、熱心なファンを一気に増やすことになった。
と同時にファン同士のコミュニケーションも活発になり、この日を楽しみにする人たちが、ベアレン醸造所の重要な営業マンの役割を果たしてくれるようになったのだ。

こういうことは意図してできることではない。
お客様とのコミュニケーションを大切にしたい、その強い想いが自然にその方向へ導いていったと言えるのではないか。

最後に。つなぐビールという本書のタイトルであるが、
人と人、100年前の伝統、地元への愛、亡くなった社員の思い、ビールがいろいろなものをつないでいる。
そんな思いが込められているのだそうだ。

つなぐ。まさに時代のキーワードである。

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