アドマン(元)のブログ「広告会社~バーチャルとリアルの狭間で」

名古屋の広告会社に働いていた元アドマンのブログ。広告とインターネットに携わる男が、時代の転換期で日々感じること、気づくこと、体験したこと、また、読んだ本や見た映画の感想などを思いのままに書き綴ります。

マーケティング3.0からマーケティング4.0へ。キーワードはデジタル。

フィリップ・コトラーとヘルマワン・カルタジャヤ、イワン・セティワアワンが書いた「マーケティング4.0」を読んだ。

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スマートフォン時代の究極法則という副題が付いている。ちなみに、原文では「Traditional to Degital」。

今は、長く続いた伝統的マーケティングからデジタルマーケティングへの大きな転換点にある。

その大転換を牽引しているのが、副題にあるように、スマートフォンの爆発的普及だ。

スマートフォンがコミュニケーションデバイスの中心的存在になったことによる、コミュニケーション態度変容の影響は計り知れない。

本作は前作「マーケティング3.0」と同じ3名の共著で、前作が2010年だったので、あれから7年後の出版ということになる。

マーケティング3.0が提唱したのは人間中心マーケティング。どちらかというと精神論的な意味合いの強い提言だったように思う。

そして、その提言から7年。この間に、その人間中心マーケティングを実践できる環境がいよいよ整った。その決定的な存在がデジタルなのである。デジタルの進展により、これからマーケティングが本格的に新しいステージに入っていく、そんな思いを抱かせてくれる。

さて、コトラーが提唱するマーケティング4.0とは、具体的にどんな考え方なのか?

端的に言うと、「企業と顧客のオンライン交流とオフライン交流を一体させるマーケティング・アプローチ」。本書ではこう定義されている。

デジタル=オンラインというのはすでに過去の考え方で、オンライン化が急速に進んでいるからこそ、オフラインの触れ合いが強力な差別化要因となり、透明性が高まるからこそ、ブランドの本物の個性が重要になってくるのだと。

そしてその一体化を実現させるのが、すべてデジタルのなせる技なのだ。

ブランド自体も伝統的なマーケティングの基本である「ポジショニングと差別化」の時代から、「個性や価値観」が問われる時代へ移行している、その流れを理解していないと誤ったマネジメントに陥りやすい。


マーケティング4.0の時代、重要な方法論のひとつとして、本書で展開の中心に据えられているのが、「カスタマージャーニー」である。

カスタマージャーニーとは決して目新しい言葉でなく、顧客の態度変容プロセスを旅の行程に例えたもので、広告業界でかつて頻繁に使われた「AIDMA」や「AISAS」に意味合いは近い。デジタルにより、このプロセスに大きな変化が生まれており、マーケティング4.0の視点でカスタマージャーニーを見直すことが何より重要なのだ。

デジタルが実現するIoTやAI、ビッグデータを活用し、顧客の認知を具体的な行動に変え、熱烈な推奨者に変える、コトラーたちは「5A」という、これまでとは180度違うカスタマージャーニーでのマーケティングアプローチを提示している。

さらに本書では「コンテンツマーケティング」の重要性にも触れている。見込み客が探している、役に立つ情報コンテンツを、制作、編集、配信、拡散することを伴うマーケティング手法で、そのプロセスで、自社ブランドに関する興味深いオリジナルストーリーを語る、そんなふうに、コトラーは述べている。

コトラーいわく「マーケターは、自身の役割をブランド・プロモーターからストーリーテラーに変えなければならない」。ここは本書で私が最も印象に残った言葉でもある。

書き出すとキリがないくらい、本書には新しい時代のマーケティングのヒントが埋め込まれている。

いずれにせよ、デジタルであるコトは、これまでできなかった顧客の行動プロセスの「見える化」が可能になることだ。なので大切なのは、まず「見える化」できることの意味を理解すること。「見える化」できれば、次のアクションがより精度高く実行できることになる。また、「見える化」することで、顧客との関係性もより深めることが可能になる。

さらにいえば、この「見える化」は逆側、つまり顧客が企業を見る場合にもあてはまるということだ。顧客が企業の行動のすべてが見えるようになることで、企業は何を考えなければいけないか?何をあらためなければならないか?ここを誤ることで起きているこのところの大企業の問題、もう言わずもがなだろう。

最後になるが、誤解したくないのは伝統的なマーケティングとデジタルマーケティングが対立軸になるのではなく、あくまで伝統的マーケティングの基礎の上にデジタルマーケティングが乗っかっているということだ。ともすると、デジタルありきで話が展開しがちだが、逆に今こそ伝統的なマーケティングを学びなおす必要があるのではないか。私自身はそんな思いを強くしている。

マーケティング4.0。知らない間に、時代は大きく転換している。

論理と理性から直感と感性の時代へ。世界のエリートが「美意識」を鍛える理由。

コーン・フェリー・ヘイグループ、シニア・クライアント・パートナー、山口周氏が書いた、『世界のビジネスエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』を読んだ。

ビジネスエリートの美意識

山口氏によれば、ニューヨークのメトロポリタン美術館やロンドンのテート・ギャラリーなど、大型美術館に設けられた社会人向けのギャラリートーク参加者の顔ぶれが今、大きく変わってきているらしい。

従来のアート好きの人たちから、グレースーツに身を包んだエリートビジネスマンと見られる人々へと様変わりしていると。

ただでさえ多忙なビジネスマンが、なぜ好き好んでギャラリートークなどへ?

実はここに、今という時代を読み解く重要な答えが隠れており、それが本書のテーマにもなっている。


ビジネスエリートがギャラリートークへ出かけ、美意識を磨く理由。

その理由を山口氏は、次の3つの時代背景から導き出す。

1.論理的・理性的な情報処理スキルの限界が露呈しつつある

2.世界中の市場が「自己実現的消費」に向かいつつある

3.システムの変化にルールの制定が追いつかない状況が発生している

最近、経営コンサルタントのよるコンサルティングがなかなか効果を発揮しないという話をよく聞くが、これなどは論理や理性による分析が、正論すぎてどのコンサルタントも同じような解をみつ引き出してしまうという、言わば「正解のコモディティ化」という問題が露呈した結果だろう。

論理や理性が通じない時代。それではどんな価値観が重要かというと、それはずばり「直感」と「感性」だと山口氏は言う。

だからこそ、冒頭のギャラリートークへ足しげく通うビジネスエリートということになるのだ。

日本ではまだ、受験勉強を勝ち抜いた頭でっかちのエリートが幅を利かせているようであるが、すでに世界のビジネス現場では、「偏差値は高いが美意識の低い」人材の淘汰が始まっている。

忙しいから美術館へ行く暇がない。そもそも美術館など興味がない。
美意識を鍛えなければ社会で生き残っていけない時代が来ていることにビジネスマンは気がつかなければならない。

そして、いささか都合が良すぎる考え方であるが、私たちのようなクリエイティブの世界で生きてきた者には追い風の時代がやってきたということだ。

『世界のビジネスエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』を読んで、そんな勇気をもらえた気がした。まだまだ捨てたもんじゃないのではないか(笑)

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「お困りごと」がビジネスチャンス。thinking to create value

井上裕一郎氏が書いた「Thinking to create value ビジネス価値を最大化する思考法」を読んだ。

ビジネス価値を最大化する思考法

筆者の井上氏は、もと広告代理店の広告ディレクター。今はその経験を活かして、広告ディレクターだけでなく、クリエイティブコンサルタントとして活躍中とのことだ。

本書のテーマはずばり、「お困りごと」にこそビジネスチャンスがある。
そしてそのテーマに対して、自身が開発した「お困りごと×自社の強み=新しい商品やサービス」というビジネス開発のフレームを提示している。

さて、その「お困りごと」とは一体どのようなものだろう。

井上氏は、その一例として、「オフィスの昼食事情」を上げている。

ご承知のとおり、都会ではランチが1000円を超えるというケースが当たり前で、月にすれば2万円にもなってしまうというのがビジネスマンの悩みの種だ。
それを解消するため、手軽なパンなどで済ますケースがあるが、これだと栄養が偏って万病の原因となってしまう。

そんなオフィスの「困りごと」の解決に乗り出したのが、ぷち社食サービス「オフィスおかん」を提供する、株式会社CHISAN」だ。

オフィスおかんとは、わかりやすく言うと、オフィスグリコの社食版。

オフィスに無料で冷蔵庫を貸し出し、冷凍の惣菜や白ご飯を供給、企業側で電子レンジを設置すれば、写真食堂を作れない中小企業でも簡易版の社食を持つことができるというわけだ。

その仕組みを提供する株式会社CHISANは、全国の生産者や製造者のネットワークがあるという「強み」を持つ会社。全国各地の食品製造者の余剰生産ラインを有効活用することで、消費者に食事を提供できる仕組みを構築することができたという。

以上を井上氏の方程式で整理すると次のようになる。

①オフィスの「お困りごと」
 ・健康的で温かいランチをリーズナブルに食べたい(社員)
 ・健康的で温かいランチをリーズナブルに食べさせてあげたい(経営者)

②「オフィスおかん」の「強み」
 ・地産地消を通して築いた全国各地の生産者、食品製造者のネットワーク

③「お困りごと」を「強み」で解決して生まれたサービス
 ・ぷち社食サービス「オフィスおかん」

④社員の昼食事情で困っている企業が導入

こうして整理されたものを読むと、困りごとを解決したいという企業の使命感が重要だということが、あらためてよく分かる。


本書の中で、井上氏は売れている商品と売れていない商品の違いはどこにあるのか?ということに対して次のように述べている。

A.その商品「売ろうとしている」のか?
B.その商品で、「社会や個人の問題を解決しようとしている」のか?

言われてみれば当たり前だが、まだ多くの企業がA.の思考になっている。

成熟した消費者は、企業の嘘や広告で過剰に作られたイメージは、その本質をあっという間に見抜いてしまう。しかもSNSがあるから、悪い評判はあっという間に伝播する。だからこそ、儲け第一ではなく、困りごとを解決しようという企業の姿勢に共感するのである。

自分の身の回りを見渡してみて、あなたや家族、あなたの勤める会社での「お困りごと」はないだろうか?
普段は意外と気づいていないが、冷静になって考えてみれば、いくつか思いつくはずだ。

イノベーションなどと無理をしなくとも、身近な困りごとの解決から自社のビジネスを見直してみる。そのほうが中小企業のやり方にあっているような気がする、本書を読んであらためてそう思った。

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AIで自社ビジネスをどう変えていくか?「決定版AI 人工知能」

快進撃が続く将棋の藤井四段。ついに破竹の29連勝を成し遂げ、歴代一位となった。

もちろんその事実自体がすごいニュースだが、私がテレビを見ていておもしろいと思ったのは、その勝ち方の分析にAI(人工知能)が使われていたことだ。

どういうことかというと、デビュー以来の対局の一手一手をAIに記憶させ、AIによる次の一手と比較させていた。
結果として、藤井四段のAIの打ち手との一致率が、対局した棋士たちの誰よりも圧倒的に高かったことがわかった。

こういった分析はAIならではだ。これからは、棋士たちも人と対局する前に、AIと対局して腕を磨くそんな時代が来るのかもしれない。

さて、そんな時代の到来を告げる1冊、NTTデータの樋口晋也氏と城塚音也氏が書いた「決定版AI 人工知能」を読んだ。

決定版AI

本書は、AIの技術解説書ではなく、AIが私たちの社会とビジネスをどのように変えるのか?多様な視点でわかりやすく書いている。

さて、そもそものAIの定義であるが、さまざまな解釈がある中で、本書では「機械により人間の知的活動を再現したもの」と定義する。そして次の4点を挙げる。

1.判断…コンピュータ囲碁
2.作文…自動記事作成
3.予測…交通制御
4.識別…画像認識

冒頭に挙げた囲碁の例は、判断の典型だと思うが、すでにAI碁の場合は、過去すべてのプロの対局碁譜を記憶して、その時の最善・最適な一手を選択するという。人間の能力ではどれだけの碁譜を覚えられるかと想像しただけでも、AIには勝てないことが容易に分かる。

私のような文書を作成する業務への影響が大きいのもまた事実。2.の作文については、日本初となった中部経済新聞でのAIの記事作成が記憶に新しい。


そんなAIが世の中のバズワードともいえる昨今で、AIによってなくなる職業について議論が絶えないが、考えるべきは完全に置き換えらえる前に、AIと共存する時代がしばらく続くことだ。

ゆえに私たちにとって重要なのは、AIとの親和性を持ち、今あるビジネスのうちルーティンな仕事をもっと生産的効率的にし、余力をより創造的な仕事に振り向けることだ。

本書では、業界別にAIの導入によって変わる仕事について書かれているが、広告業界への影響として「デジタル・マーケティング」について触れている。具体的にいうと、広告入札、マーケティングの自動化へのAI導入だ。
さらにネットの世界だけでなく、リアル店舗の販売促進へのAI導入も急速に拡がってきている。特に「アベジャ」の事例が示唆的かつ刺激的で興味は尽きない。私に取っても目から鱗だった。

AIを目的にするのではなく、AIを活用することで自社のビジネスにどう良い影響を与えることができるのか?経営者が持つべき視点はそこに尽きる。

そういう意味では、自社ビジネスを今一度点検するために、経営者にとっては非常に役に立つ1冊と言える。


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「日本の工芸を元気にする!」ビジョンのゴールは100年先。

中川政七商店十三代、中川政七氏が書いた「日本の工芸を元気にする!」を読んだ。

日本の工芸を元気にする

中川政七商店はは2016年、創業300年を迎えた。それを機に中川淳から中川政七に改名したことはご存知だろうか。
よって本書は、中川氏にとって改名後はじめての出版となる。

中川氏は以前、50歳で引退を明言していたが、スノーピークの山井社長に諭され撤回したと本書にある。
おそらく覚悟を決めたということだろう。本書からはこれまで以上にその想いの強さが伝わってきた。

本書は、300年を迎えるにあたり、タイトルにもある「日本の工芸を元気にする!」というビジョンを見つけそれを実践していく過程が中心に据えられている。

そのゴールは100年先。

もちろんその時は中川氏もいないわけだが、中川氏に言わせれば、それくらい時間を掛けないとこのビジョンは達成できない、それくらい壮大な構想ということなのだろう。

さて、その「日本の工芸を元気にする!」という壮大なビジョンを掲げたことで、
それまで家業中心、自社製品開発と販売を中心としていたビジネスから、そこへ工芸を商う他社のコンサルティングを事業に加えた。

ミッション、ビジョンを明確に掲げることで成長を遂げた企業の例は、枚挙にいとまがないが、中川政七商店もそれによりその後の急成長につながっていく。ビジョンの重要さをあらためて教えてくれている。

そのあたりの経緯はこれまでに出版された中川氏の本にも触れられているが、最新刊である本書では、300周年の記念プロジェクトからポーター賞受賞、上場目前で断念したこと、そして自身が社長就任後はじめて直面した既存店での売上減少。そのあたりの葛藤と新たな取り組みの可能性について詳細に記されていて興味深く読んだ。

2002年、奈良の老舗企業というレベルの中川政七商店に入社してから社長に就任し、13代中川政七を襲名するまでわずか15年。今ではその存在を知らない人はいないほど、有名な会社に育て上げた。そのスピード感たるや、自分の15年前を考えるだけでもぞっとする。

それくらい凄いことがこの短期間で実現できた理由とは何なのか?そのエッセンスが凝縮された1冊が本書である。

ブランディングとはかくあるべき、それを理論だけでなく実践で示す中川氏の本は、説得力という意味でも右に出るものはないだろう。本書を読んであらためて思った。

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