アドマン(元)のブログ「広告会社~バーチャルとリアルの狭間で」

名古屋の広告会社に働いていた元アドマンのブログ。広告とインターネットに携わる男が、時代の転換期で日々感じること、気づくこと、体験したこと、また、読んだ本や見た映画の感想などを思いのままに書き綴ります。

スーパーストーリーが人を動かす。行動型ストーリー企業の時代。

広告業界で20年以上のキャリアを持つマーケティング・イノベーター、タイ・モンタギュー―氏が書いた「スーパーストーリーが人を動かす~共感を呼ぶビジョン&アクション」を読んだ。



著者モンタギュー氏によれば、ほとんどの企業は、以下の二つのタイプに分けられるという。

・発信型ストーリー企業

広告や言葉によって製品やサービスのメッセージを一方的に伝える(ストーリーテリング)企業。従来の企業はほとんどがこのタイプだった。

・行動型ストーリー企業

スーパーストーリーに基づいたオリジナリティのある行動を実践する(ストーリードゥイング)企業。広告宣伝をあまり行わず、関心を持つ人々に向けた製品やサービスを提供することで、人を中心に据えたビジネスを展開する。今成長中の会社はこのタイプが多い。

本書でモンタギュー氏は、先にも述べたように広告業界20年のキャリアをベースに、その間での自身の体験から「行動型ストーリー企業」が世の中で受けいられる背景や可能性について、さらにはどうしたらスーパーストーリーを軸にして行動型ストーリー企業に変貌できるのかについて綴っている。

行動型ストーリー企業の代表として本書に登場するのは、レッドブル、デビアスダイヤモンド、サブウェイ、ケロッグなど。アメリカと日本との展開に違いはあるのかもしれない、私自身の認識としては日本においてはテレビCM等で名前を知ったような気もしないわけではない。しかし本書を良く読んでみると、少なくともこの10年ほどの成長は「スーパーストーリー」の存在なくしてはあり得ないということが理解できる。

それでは本書の最大のテーマ「スーパーストーリー」とは何なのだろう。

まずその前提となるのが、世の中に対しての強いミッションの存在だ。
自社の製品やサービスを通してこんな世の中を実現したい、いわば信念のようなもの。
ミッションは思っただけでは世の中にインパクトを与えることはできない。
ひとつひとつの行動を通して社員と共有し、あらゆる顧客接点において、顧客との共感を創造することが重要だ。
その一貫した体験で顧客の心の中に綴られていく物語こそ、スーパーストーリーなのである。

ゆえに売上ありきではない。短期決戦でもない。時間をかけて一貫した考え方で、社員、顧客、そして世の中と向き合っていく。いわば経営者の姿勢、企業の姿勢そのものなのだ。

言葉は違えど、ブランディングの考え方とニアイコールと言っても良いかもしれない。

本書を読んで思うこと。

モンタギュー氏は、広告そのものを否定しているわけではない。広告的な考え方、つまりは企業や商品の良さを自ら一方的に語っていくコミュニケーションのあり方を否定しているのだ。その価値観はすでに前近代的なものになっていると。経営者やアドマンはそこを見誤ってはならない。

会社というものは、創業から時間が経ち、成長して大きくなると創業の「思い」を忘れがちだ。
ただただ儲けることに邁進すると…結果は目に見えている。

先がみえにくい今だからこそ、原点の「思い」に立ち返り、その思いを社員、顧客と地道に共有していく。
その必要性に気づくことが重要であるとするなら、本書は間違いなく価値ある1冊である。

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ホスピタリティの陰に、ミッションあり。

「スターバックスのライバルは、リッツ・カールトンである。~本当のホスピタリティの話をしよう」を読んだ。




元スターバックスコーヒージャパンの岩田松雄氏と元リッツ・カールトン日本支社長の高野登氏の対談、そして対談テーマは、ズバリ「ホスピタリティ(おもてなし)」である。

まさに夢の顔合わせ。そして、過去それぞれの著書で明らかにしてきた「ホスピタリティ」についての持論を語り合うとなると、もうそれだけでもワクワクものだ。

果たしてどんな展開になるのだろうか?

結論から言うと、予想に違わぬ、いや予想以上の濃い内容であった。

方やスターバックスを5次産業と位置づける岩田氏。
サービス業が第3次産業、そして近年言われるようにIT企業を第4次産業と呼ぶならば、スターバックスはその上を行く感動経験を提供する第5次産業と岩田氏は言う。

そしてもう一人の主役は、東京オリンピックで「おもてなし」という言葉だけが独り歩きしてしまい、ある意味危機感を感じているという高野氏。
本当のホスピタリティというものは昨日今日で身につけられるものではなく、それだけに人としての人間力こそが今問われるべきであると。

ふたりに共通するのは、人としての原理原則をとても大切にすること。
表現する言葉は違えど、人としてあるべきという基本に徹底的にこだわっている。

その二人の考え方が象徴的に展開されるのが、第三章:御社のミッションは何ですか?

スターバックスにもリッツ・カールトンにも、強いミッションが存在する。
ホスピタリティの源泉がこのミッションにあることは想像に難くないが、重要なのはミッションを浸透させるプロセスだ。
そのためのツールが、スターバックスで言えばグリーンエプロンブックであるし、リッツ・カールトンで言えば有名なクレドカードである。

しかし、この共通点以上に私にとって目から鱗だったのが、リッツ・カールトンで高野氏が若手社員の教育に使った教科書が「修身」だという事実。高野氏は成熟時代を迎える日本にとってのすべての答えがこの中に詰まっていると言っている。

もともと日本の経営の中心にあったのは「たとえ最小の結果しか見えなくても、最大の努力を惜しまない」という商人の魂。

何百年と綿々と受け継がれてきたあえて効率を求めないという日本的経営ともいうべき思想が、アメリカからやってきた「最小の努力で最大の結果を得る」レバレッジ思想により、あっという間に席巻され、多くの経営者の心から失われてしまった…

経営理念にレバレッジの考え方を持ち込むのは絶対に良くない。これは昔も今も変わらない高野氏の持論だそうだ。
過去からの著書、発言を思いかえしても、確かにこの点で高野氏には1点の曇りもないと思える。

さらに高野氏は、この章で「勝ち組」「負け組」という言葉も好きではないと話を続ける。
戸隠の農家出身である高野氏は、昔から農家は助け合って1年を超す算段をしてきた、それが勝ち負けのない当たり前の社会だったと、田舎での生い立ちが自身の価値観を培っていることをあらためて認めている。

身を修める教育、修身。今の日本の状況を見ていると、本当に必要であると思わざるを得ない。

なるほど、ホスピタリティを突き詰めるば突き詰めるほど人間そのものに行き着くと、二人の対談を読んで思いを強くした。

人としてどうあるべきか?人としてどう生きるべきか?

原理原則に則った正しい考え方の積み重ねがホスピタリティにつながっていく。要は人間力なのだ。人間力を磨こう。

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「モノを売る」広告の役割は終わった。それははたして広告の終わりなのか?

電通ソーシャル・デザイン・エンジンの並河進氏が書いた『Communicationn Shift 「モノを売る」から「社会を良くする」コミュニケーションへ』を読んだ。



この本、買ってからすでに3度ほど読み返しているが、何度読み返してもページを繰る度に新たな気づきを与えてくれる。それほど奥が深く、これからのコミュニケーションのあり方に対して、非常に示唆に富んだ1冊であることは間違いない。

本書は、「モノを売る」ための広告に、並河氏が素朴な疑問を持ったことに端を発している。
そしてコミュニケーションに携わるさまざまな知見、またそれを実践する人と出会って、辿りついた並河氏なりの答えが「社会をよくする」コミュニケーションという広告の役割だ。

なぜモノを売るための広告が機能しなくなったのか。

このあたり私自身の経験と重なる部分も多いが、そもそもモノを売るためには、至極当然のことではあるが、生活者がモノを“買う理由”が必要である。

つまり、広告主側の売る理由だけでなく、売る理由と買う理由が一致して初めて売るという行為が成立するわけだ。

それをある意味、広告はすっ飛ばしてしまう。
正確にいうと、広告が機能した時代には、すっ飛ばしてしまうほどのパワーを持っていた。それだけ広告主、メディアの力が強かったわけである。だから広告が機能したのだ。

ところが今はどうか。並河氏の疑問はまさにその1点。

広告でどれだけきれい事を並べても、ネットで調べればすぐに底が知れてしまう。
悪い評判は、口コミで一夜にして全国、いや全世界を駆け巡る時代になったのだ。
それゆえ企業は広告だけでなく、あらゆる顧客接点において正直で透明であらざるを得ない。
それができる企業が、はじめて広告効果と言う恩恵に預かることができる。
しかしその効果も短期の結果だけを求めるとしっぺ返しに合う。それほど厳しい時代になったと言えよう。

以上が、広告が機能しなくなった(=多くの広告会社が必要とされなくなった)最大の理由ではないか。

本書で並河氏が対談しているのは、澤本氏、永井氏、箭内氏、佐藤氏など広告業界における錚々たる面々。
こんな厳しい環境下で、それぞれにこれからの広告のあるべき姿を追求されている。

中でも私がいちばん共感を覚えたのが、元電通のコミュニケーションデザイナー佐藤尚之(通称:さとなお)氏の次の言葉。(明日の広告、明日のコミュニケーションの著者で、多くのアドマンにとってはおなじみの存在)
少し長くなるが抜粋する。

これからのコミュニケーションは、効率のよいマスコミュニケーションよりも、もっと時間と手間がかかる、ある意味、効率の悪いコミュニケーションこそが大切なのではないか?とし、

「僕は、大きくぶち上げたものはすぐ消費されると思っているところがあるんです。どんな力でもいいから使って、人の心を無理やりグイッと動かしたとしても、その時期が終わったらまたやっぱりさらっと戻っちゃう気がする。僕が目指しているのは、もっと漢方的なもの。じわじわでもいいから確実に変わっていく方がよくて。

~中略~

もちろん、ネットだから距離と時間を超えられる。そういう意味では昔と全然違うんだけど、でも、効率ではない、手間暇がかかる、本来あるべき人と人とのコミュニケーションのカタチ。もう一回戻るんじゃないかな、そういう世界に。効率じゃない世界に。人間関係だけじゃなく、ビジネスのやりとりも、マーケティング自体も。」

本書で並河氏が提唱する「新しい広告のカタチ」は本人が言うとおり、広告の形をしていないのかもしれない。

が、そもそも問題は呼び名ではなく、“広告的な価値観”が世の中の課題解決につながるかどうかが重要だ。そこにつながるのであれば、極論すれば、もう呼び名はどうだっていいのではないだろうか。

常々、私が感じていること。

中小の広告会社の最大の問題は、広告がビジネス(=金儲け)の目的となってしまっていること、そしてその価値観を長い間変えられないまま今日に至っていることだ。広告を手段として本来の目的(=世の中の課題解決。一歩下がって言えば広告主の課題解決)に立ち返ることが、この先生き残れる最大の条件であることを認識することから、新たな役割への道が始まるのだ。

並河氏が提唱する「社会をよくする」コミュニケーション。広告業界はもちろん、今の世の中の企業、ビジネスに欠けている、持続的成長への貴重な視点を与えてくれている。

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「これがいい」ではなく「これでいい」。1文字で変わるコンセプトの力。

ブランド・コンサルタント/クリエイティブ・ディレクターの江上隆夫氏の書いた『無印良品の「あれ」は決して安くないのになぜ飛ぶように売れるのか?』を読んだ。



無印良品。このブランドの出発点が、セゾングループのスーパーマーケット「西友」のプライベートブランドであることをご存じの方は少ないのでないだろうか。
1980年の誕生から、今では全世界に展開するワールドブランドにまで成長を遂げた。

その成長の秘密は「コンセプト」の存在にあるというのが本書のテーマである。

無印を題材にコンセプトとは何かを解き明かし、コンセプトの「作り方」「使い方」までを網羅した、まさにコンセプト一色の本書。読むだけでなく実践することで、自身のビジネスに独自性をもたらす、そんなお得な1冊だ。

タイトルに掲げた、「これがいい」ではなく「これでいい」は、無印良品のブランド感を端的に表わすコンセプトともいえるコピー。
「が」と「で」。
たった1文字であるが、この1文字が無印良品と言うブランドの独自性を究極のレベルにまで高めている。

本書でも紹介されている、アートディレクター原研哉がメッセージとしてまとめたコピーが以下のものだ。

無印良品はブランドではありません。無印良品は個性や流行を商品にはせず、商標の人気を価格に反映させません。無印良品は地球規模の消費の未来を見とおす視点から商品を生み出してきました。それは「これがいい」「これでなくてはいけない」というような強い嗜好性を誘う商品づくりではありません。無印良品が目指しているのは「これがいい」ではなく「これでいい」という理性的な満足感をお客さまに持っていただくこと。つまり「が」ではなく「で」なのです。

いかがだろうか。

やみくもに流行を追うのではなく、商品の本質を考え抜き「普遍性」を持って良しとする。その考え方が、企業戦略から商品戦略、販売戦略など、会社の隅々まで浸透していく、すべての核となるのがコンセプトなのである。
ブランドではないことが、結局強いブランドを作っているのだ。

さて、コンセプトは理解しても、いざ自社の会社でとなると、なかなか敷居が高いというのが、ほとんどの人の正直な感想だろう。

それに対して江上氏は、あくまで入門者を意識して親切丁寧にコンセプトの「作り方」「使い方」を多くのページを割いて紹介してくれている。事実、ここまで実践的にコンセプトの効用を紹介している書籍には私自身出会ったことがない。

江上氏自身も、コンセプトを自分のものにできるようになるまでには5年くらいかかった、というように、読めば簡単にコンセプトを作れるようになれるくわけではないかもしれない。しかしながら、ヒット商品、成長する企業の背景に潜在するコンセプトを読みとることができるようになれば、それだけでもビジネスのスキルは大幅に向上するはずだ。

まずはコンセプトの持つ力を理解すること。そこからすべては始まる。

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作る人と食べる人をつなぐ。フードディレクター奥村文絵の仕事。

フードディレクター奥村文絵が書いた、『地域の「おいしい」をつくるフードディレクションという仕事』を読んだ。




まず感嘆したのが、この人、実に文章がうまいということ。

自分の想いを伝えるのに、熱すぎず冷めすぎず、客観性を持って絶妙なバランス感覚で言葉を運んでいく。
センスの良い人とはこういう人のことをいうのだろう。

そんな彼女のセンスがそのまま100%活かされるのがフードディレクションという仕事。本書を読んでまさに天職という感じがした。

奥村氏は、自らのフードディレクターという仕事を本書でこう記している。

“食の世界には、食物をつくる人、道具をつくる人、流通させる人、料理する人、販売する人…と、食べることを軸にしていろいろな役割の人が存在し、それぞれの専門性は深化し続けています。食に関わる様々な人やその技術が経(たて)糸とならば、緯(よこ)糸となってそれらを紡いでいき、食のシーンを反物のように美しく、そして多様に織り上げる。その役割を担いたいという考えから、あまり聞き慣れない肩書かもしれませんが、私は自らを「フードディレクター」と名乗り、活動を続けているのです。”

本書で奥村氏はフードディレクターの仕事を広告のクリエイティブディレクターに似た仕事とも言っている。
広告業界に馴染んだ人にはこちらの方が分かりやすいかもしれない。

与えられた課題があって、その解決策をコピーライターやデザイナー、カメラマン、イラストレーターなどのブレーンを束ねてひとつの形にしていく。いわば総監督のような存在がクリエイティブディレクターだ。
いささか強引ではあるが、広告をそのまま「食」に置き換えてみれば彼女の役割が見えてくる。かくいう私も仕事の規模は小さいものの長年その役割を担ってきた、なんとも中途半端で終わってしまったが、それだけに彼女の、今日のポジションを築くまでの苦労が手に取るようにわかる。

さて本書で紹介されている奥村氏のディレクションワークは、ざっと以下のとおりだ。

・遊佐町「彦太郎うるち」他 地域色ブランド開発
・北海道滝川町 「イル・チエロ」リノベーション
・ハインツ日本「ハインツのある物語」ウェブ・コンテンツ制作
・穂坂町「ヴァン穂坂」他 地域色ブランド開発
・日本橋「榮太郎総本舗」りブランディング

ひとつひとつ求められる役割は微妙に違っているが、そのアプローチに共通するのは、徹底した現場での取材。
納得いくまでこれでもかと、とことん時間を費やす。そこまでしなくてもと思えるくらい丁寧な仕事は、遠回りに見えて、結局最短距離で確実な答えを導き出すことにつながっている。それが肌でわかるのはまさしく彼女の天賦の才能ではないだろうか。

奥村文絵が手掛ける、つくる人と食べる人をつなぐ仕事。
マーケティングも、ブランディングも、町興しも、人づくりも包含した実に魅力的な仕事だ。
次はどんな地域の課題に取り組むのだろう、想像しただけでワクワクしてくる。

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