アドマン(元)のブログ「広告会社~バーチャルとリアルの狭間で」

名古屋の広告会社に働いていた元アドマンのブログ。広告とインターネットに携わる男が、時代の転換期で日々感じること、気づくこと、体験したこと、また、読んだ本や見た映画の感想などを思いのままに書き綴ります。

読了「学校蔵の特別授業〜佐渡から考える島国ニッポンの未来」

佐渡にある日本酒の酒蔵「真野鶴」五代目蔵元、尾畑留美子さんが書いた「学校蔵の特別授業」。

学校蔵の特別授業

課題先進国と呼ばれる日本、その中でもさらに課題の最先端をいく佐渡での「学校蔵」の取組み、そしてそこで行われた特別事業の内容を再現する1冊です。

少子化、人口減少、高齢社会、過疎…これからの日本を考える上で避けて通れない課題に対してのさまざまなヒントが詰まっていて、ある意味、勇気と元気をもらえました。

舞台は、少子化の影響で廃校となった小学校です。

廃校舎の再活用例は全国でさまざまありますが、ここで尾畑さんたちが取り組んだのが、他では類をみない「酒蔵」としての再活用……。

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尾畑さんは、佐渡で1892年から酒造りを続ける蔵元、尾畑酒造の次女として生まれました。
女二人の姉妹ということで、幼い頃から漠然と酒蔵を継ごうと考えていたそうです。
しかし中学校の時に姉夫婦が酒蔵を継いだことで、自身は方向転換して東京の大学へ。
卒業後は映画配給会社で宣伝の仕事に携わりました。

そんなわけで東京生活を満喫していた尾畑さんですが、家業を継いでいた姉夫婦が父親とソリが合わず出て行ってしまったこと、父親が病院で入院したことなどをきっかけに「蔵に帰ろう」と決意したのが1994年。

帰った当初は、やることなすことうまく行かなかった、しかし5年目のある日、はたと気づいたのだそうです。

うまく行かないことを誰かのせいにすること、逃げることをやめてみようと。

そうしたら不思議、そこからいろいろなチャンスが舞い込んでくるようになったとか。

ターニングポイントとなったのは発想自体の転換。

縮小する市場で他社とシェアを奪い合うのではなく、微力でも市場そのものが大きくなる方向性に取り組みを変えました。

日本酒離れが著しい若年層を対象にセミナーを開いたり、海外で活躍するビジネスパーソンに酒講座を開設したり。
直接には自社商品の販売と関係ない企画を意識的に仕掛たのだそうです。

そんな地道に積み重ねた結果が、かつてない「学校蔵」の取り組みにつながっていきます。

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学校蔵でめざすのは次の4つの取り組み。

1.酒の製造
2.学び
3.交流
4.環境

本書で紹介されているのは、まさに3.交流の場づくりとして開催された3人の先生を招いての特別授業です。

3人の先生とは、
藻谷浩介さん
酒井穣さん
玄田有史さん

いずれも地方創生の取組みにおいて独自の視点を持った、私も大好きな人たち。

3人が尾畑さんと熱く語り合った内容は、佐渡というフィルターを通してみた、まさにこれからの日本が直面する課題の縮図といったものでした。

日本酒好きだからより感情移入して読めたということもありますが、それを抜きにしても、日本文化の象徴ともいえる日本酒の持つポテンシャルの高さ、人をつなぐツールとしての存在価値、なぜ今、日本酒が注目されているのかをあらためて知ることができました。

学校蔵。なんだかワクワクしてきませんか(笑)

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読了「体験デザインブランディング〜コトの時代の、モノの価値の作り方」

「デザイナーと芸術家の違いは?」そう尋ねられて、明確に答えらえる人はどれくらいいるでしょうか。

どちらもクリエイティブなポジションにあることは間違いありませんが、いちばんの違いは、目指すゴール。

その違いを、本書「体験デザインブランディング」で、著者の室井さんはこんなたとえで説明しています。

体験デザインブランディング

「平たく言えば、芸術家の夢は美術館にたどり着くことであるが、デザイナーの夢は市内のスーパーにたどり着くことである」
芸術家は芸術家として尊敬されるべき存在ですが、デザイナーは戦略家として、表現の世界を泳ぎ続けてはならないのです。

うまいこと言いますね(笑)。

デザイナー=戦略家

今やデザイナーのポジションは、チラシや雑誌の文字や写真を上手にレイアウトする表現の世界の人ではないのです。むしろ、経営者のパートナーとして、そのような見える価値ではなく、「見えない価値」を創造することこそ、デザイナーの重要な役割であると。

企業ブランディングを手がける、クリエイティブディレクター佐藤可士和さんや水野学さんをイメージしてもらうとわかりやすいでしょう。決してかっこいいツールを作ることを目的としていないのです。むしろデザインが目立たないことの方が重要なのかもしれません。


デザイナーが行うべきデザインをそのように規定して、本書で室井さんが展開するのが、「体験デザインブランディング」。

顧客の心をつかんで離さないブランドには、ある共通する要素があると室井さんは言います。

それがコトのデザイン「ブランドエクスペリエンス(ブランド体験)」

すぐれたブランドは、商品やサービスを「顧客体験=コト」という視点で編集し直し、新たな視覚的デザインを加える事で、どこにもないブランドを創造し続けている。特に重要なのは“クリエイティブな視点を持ちながら”だと。

この代表例が、言わずもがなですが、アップルではないでしょうか。


それでは、従来にないこうした新しい価値や視点というのは、いったいどこから生まれてくるのでしょうか?
室井さん曰く、それこそが本書のテーマでもある「デザイン発想」なのです。

本書では事業戦略にデザイン発想を加えることで、魅力的なブランドを生み出している企業の事例を紹介することで、体験デザインと視覚的デザインの重要性や作り方を解き明かしています。

どちらかというと、現代はWebやバーチャルな体験が優先される時代背景にありますが、室井さんが重視するのは、あくまでリアルなブランド体験
ブランディングを体験デザインの観点からとらえた書籍は稀有で、そういう意味では貴重な1冊です。

室井さんは、ブランド体験の構成要素として次の3つを挙げています。

Operation(人)、Product(モノ)、design(空間)。

「人」は、接客。どんなスタッフが、どんな格好で、どんな接客を行うか。
「モノ」は、主には商品。店内でどのように扱われるか、見せるか。
「空間」は空間デザイン、サインやインテリアはどのようなものか。などです。

加えて重要なのは、3つをつなぐ「体験シナリオ」であると。

来店者がどのような順番でブランド空間を体験していくかを具体的に作成することで、
より体験の精度が上がると室井さんはいいます。

本書の最後で、室井さんが取締役として経営に参画している「表参道布団店。」の事例が紹介されますが、まさに自身の考え方の実践例として、非常に興味深く読むことができました。

モノ自体での差別化が難しくなり、モノが売れない時代に、経営戦略がどのようにあるべきか?
その答えの一つがデザイナーの経営への参画であり、体験デザインによるブランディングなのではないでしょうか。

私自身がめざすところであり、それゆえに手に取った書籍ではありますが、経営の先行きに悩む経営者の方々にとっても一つの突破口となる戦略、それが「体験デザインブランディング」であることは間違いありません。

そして、広告の衰退で燻っていたデザイナー、クリエイティブディレクターの存在、ふたたび表舞台で脚光を浴びる時がきました。

〜もと博報堂、アーキセプトシティ代表/クリエイティブディレクター/一級建築士の室井淳司さんが書いた「体験デザインブランディング」。

「音楽性=ミッション」会社経営とバンドは似ている?!〜WIRED日本版

池上さんに「出たよ」と教えていただき買った、WIRED 日本版最新号。
特集は「Good Company いい会社 ビジネスとミッションは両立できる!」です。

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いまから先、世の中から共感を集められる会社について、鎌倉投信の新井さんが選ぶ「7つのいい会社」はじめ、さまざまな角度から記事が書かれていて、経営者にはとても参考にできる内容だと思います。

その冒頭で編集長の若林さんが「ミッションと音楽」というタイトルでとてもよい巻頭言を書いています。

以下、引用。

若林さんの会社って何のためにあるんですかね、という問いに対しての、ある出版社の社長の言葉から始まり、ひとりではできないことがみんなと一緒だからできる、だからこそ、何でオレら集まったんだっけ?という根本の理由が必要なんだと。
こんなことをいうとナメるなと怒られそうだけど、会社はいろんな意味でバンドに似ていると思う。
どういう音楽をやりたくってオレら集まったんだっけ?その認識がズレていき解散に至る過程を専門用語では「音楽性の相違」というのだけれど、会社もまたきっと自らの「音楽性=ミッション」をつねに自分に向けて問うことなくしては。生き生きとは存続しない。
音楽性を見失ったバンドは解散するしかない。いや、必ず解散するのである。

組織をオーケストラやサッカーチームに例える話はよくありますが、会社がバンドに似ているという話は私自身、はじめて聞きました。

そして、音楽性=ミッションと!

確かに音楽性が違っては長く続かないのは当たり前、楽しくないわけですから。
会社も同じですね。お金を稼げるから我慢したとして、少なくともパフォーマンスが落ちることは間違いなく、会社にとってはマイナス以外の何物でもありません。
だからこそ、ミッションは重要なんだと。社長がまずやりたい(自分たちしかできない)音楽の方向性を示さなければ!

久しぶりに、ミッションとは?の、わかりやすいたとえに出会いました。


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平田オリザ「下り坂をそろそろと下る」。あたらしい「この国のかたち」を考える。

平田オリザさんが書いた「下り坂をそろそろと下る」を読了。

下り坂をそろそろ下る

平田さんといえば劇作家、演出家として有名ですが、一方で、大学でコミュニケーション教育や文化政策の講義を受け持ち、ここ最近では地方創生や少子化問題についての講演依頼もひっきりなしとマルチに活躍されています。

そんな平田さんの最新刊が本書、「下り坂をそろそろと下る」。
成長ありきの世の中に警鐘を鳴らし、これからの日本人のあり方を考察する1冊です。


そもそも日本人は「なぜ下り坂をそろそろと下る」必要があるのか。

平田さんがこう考える背景には、いまの日本における3つの「ない」があります。

1.もはや日本は、工業立国ではない。
2.もはや日本は、成長社会ではない。
3.もはやこの国は、アジア唯一の先進国ではない。

つまり、3つの「ない」を受け入れ価値観を転換することが重要で、それができれば、たとえ下り坂にあっても、幸せを感じられる世の中にできると。
安倍政権に言わせれば、まさに全否定ともなりそうな話ですが、確かにいまの社会を冷静に眺めてみれば、平田さんの考えの方が妥当なのではないでしょうか。

平田さんの「下り坂」という考え方。5年ほど前に五木寛之さんが書いた「下山の思想」を読んだ時と同じような、肩の力がすっと抜ける清々しさを伴った読後感でした。


本書では、国の重要な社会問題のひとつである少子化について、平田さんの考え方を象徴する一文が度々登場します。

「子育て中のお母さんが、昼間に、子供を保育園に預けて芝居や映画を観に行っても、後ろ指を指されない社会を作ること」


この視点がいまの少子化対策にいちばん欠けている部分だと平田さんはいいます。

続けると、平田さんの主張はこうです。

「政府は賃金を上げることを重要施策としており、確かに収入が少なければ高額なお金を払って芝居を楽しむことができないのは事実だが。問題は日本の異様に高いチケット代にあるのであり、さらにいえば、本当に大切なことは平日の昼間にどうしても観たい芝居やライブがあれば、職場に申し出て、いつでも気軽に休みを取れるようにすることではないか。」

私自身も全面的に賛同、まさにいまの世の中の問題を象徴する主張。芸術や文化に対して、考え方が貧困な政治家が国の進路を握っていることを憂うのは平田さんだけではありません。おそらくは庶民的感覚を持った人であれば、素直に受け入れられる考え方なのではないでしょうか。

子育て中のお母さんも失業者も同様。なぜなら、同じ人間なのですから。

昼間に映画を観る、芝居を観る、ライブに行く。
「あいつ、サボりやがって」と後ろ指を指されることなく、「どうぞ楽しんで来なさい」と言える会社がたくさん存在する世の中をつくること。これが私が考えるコミュニケーションデザインであり、コミュニティデザイン。そのためのコミュニケーション教育なのだと平田さんはいいます。

旧来の政治家にはこれ以上期待できないのではないか。少なくとも、あたらしい「この国のかたち」は彼らにまかせておけない。参議院選挙も近いいまだからこそ、私たちもあらためて考える必要があるのではないでしょうか。

文化の力、もっともっと活用すべきです。本書を読んで、そんな思いを新たにしました。

そうだ、星を売ろう。売れない時代のビジネスモデルとは。

マーケティング戦略アドバイザー永井孝尚さんが書いた最新刊、「そうだ、星を売ろう」です。

そうだ星を売ろう

永井さんを一躍有名にしたのが大ベストセラー「100円のコーラを1000円で売る方法」、読まれた方も多いのではないでしょうか。

今回は、そんな永井さんがまたまた新境地を拓いた1冊。長野県下伊那郡阿智村で取材したエピソードをもとに書き起こした、限りなく真実に近いフィクションです。

心温まる感動の物語ですが、それだけでなく巧みに作られたビジネスストーリーでもあります。読み進めるうちに、自然とビジネス戦略が学べるという優れもの。このあたりは永井さんの筆力の真骨頂です。

さて、本書の舞台、長野県下伊那郡阿智村といえば、先日もテレビで取り上げられていたように、いまでは「日本一美しい星空の村」として全国的に名をはせる人気観光地。

とはいえ、少し前までは温泉客依存でジリ貧となっていた課題いっぱいの村だったのです。

それがどのようにして蘇ることができたのか。その起爆剤となった商品がずばり「星空」というわけです。

物語の中心となっているのは、星空が商品として認知され衰退の一途にあった村を救うそのプロセス。
ふたりの人物の価値観の相違が対比的に描かれていきます。
大量生産大量消費の象徴としての老経営コンサルタント。新しい時代の象徴としての若手社員。
それはそのまま「モノ」の時代と「コト」の時代の象徴でもあります。

二人の価値観が対立する展開はまさに今の地域創生現場の縮図。こんなことが今も全国至るところで起こっているのでしょう。

読んでいても思わずクスっとさせられ、気づいたら若手社員、諸星にエールを送っているという始末。わかっていても永井さんの狙いにまんまとはまってしまう、そのストーリーの展開力には脱帽でした。

そして、その物語にさりげなく散りばめられている、ジョン・コッターやダニエル・ピンクなど数々のビジネス理論も、堅い本をは苦手という人でも、おそらくすんなりと理解できるのでは。

阿智村の「星を売る」物語。
ご本人があえてフィクションと名打つとおり少し美化されすぎているきらいはありますが、地域再生を学ぶ人、地域再生をビジネスとする人にとっても、おすすめの1冊です。

永井さんの著書は、以前にも紹介させていただいています。「戦略力」が身につく方法。


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