アドマン(元)のブログ「広告会社~バーチャルとリアルの狭間で」

名古屋の広告会社に働いていた元アドマンのブログ。広告とインターネットに携わる男が、時代の転換期で日々感じること、気づくこと、体験したこと、また、読んだ本や見た映画の感想などを思いのままに書き綴ります。

なぜ売ってはいけないのかがわかる。高級ブランドに学ぶ「売らずに売る技術」。

ライター・編集者の小山田裕哉さんが書いた「売らずに売る技術」を読んだ。



久々に文句なく人にすすめたくなる1冊。「売り込んだら売れない」を信条に、ここ10年ほどビジネスのあり方を研究してきた私にとって、あらためて「売る」ことの奥深さを教えてもらう1冊に出会った。


本書の前提となっているのが、今が企業にとって「売ろうとして売ることが難しい」時代にあることだ。
いささか逆説的であるが、そんな時代にどうしたら「売れる」のか、そしてそのために企業が何を考え、どのように振る舞うべきかが本書での小山田さんの一貫したテーマになっている。

本書が他のブランディング本と決定的に違うのは「ラグジュアリーブランド」を題材に選んでいる点。

なぜ小山田さんがラグジュアリーブランドを選んだのか?
理由は、ラグジュアリーブランドは、ブランディングの本質である「安売りせずにどうやって売るか」を追求しているからだそう。
確かに安易に価格競争に走らないからこそ、他者との違いを作る独自の物語や世界観がより重要になってくるに違いない。そしてそれこそがブランドを決定づける重要な要素なのだ。


さて。今ラグジュアリーブランドの世界では、大きな地殻変動が起きている。
その最大の原因は、デジタル化の進展、そしてスマートフォンとソーシャルメディアの台頭。
小山田さんは、ここ10年ほどの間に、そのパラダイムシフトを取り込めたブランドと取り込めなかったブランドの2極化が起きていると指摘する。

中でも象徴的に紹介されているのがバーバリーの再生。デジタルの価値観をどのように受け入れるべきか頭を悩ませている経営者、幹部には実に参考になる話である。


本書の中で、特に私が興味を覚えたのは、第4章。人々がブランドに求めるのは「お買い得」か「信頼」か。

「ソーシャルグッド」という言葉を聞いたことがあるだろうか。
「ソーシャルグッド」を直訳すると「社会に善い行い」、ラグジュアリーブランドがまさに今競い合っているのは、「ソーシャルグッド」によるブランディング。そしてそのブランディングこそ、今消費者を動かす最大のプロモーション、まさに著者が言う「攻めのブランディング」なのである。

それが可能になったのは、先にも書いたソーシャルメディアの影響力。ソーシャルメディアの上では偉い経営者も昨日入ったばかりの社員も対等の関係、肩書きではなく共感できるかどうかで評価が決まる。共感の積み重ねで「信頼」を得ることもできれば、ちょっとした不遜な振る舞いで「信頼」は一瞬にして「不信」になってしまう。

ゆえに、今の時代の「ソーシャルグッド」とは、企業の価値観そのものといってもいいだろう。対して、「信頼」がいかに重要か、まだまだわかっていない経営者が多いと感じるのは私だけだろうか。

世の中が「価格」から「価値」の時代に転換しつつある今、その最前線にあるラグジュアリーブランドが今どんなことを考えていてどこに向かおうとしているのかを知ることは、まさにこの先やってくるであろう時代の新たな潮流を知ることにつながる。そういう意味では、経営者にとってもいわば「道しるべ」となるような1冊になるのではないだろうか。読んで損はない1冊である。

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企業の社会的無責任の弊害は、国と企業だけでは取り戻せない。

経営学の巨匠と呼ばれる、ヘンリー・ミンツバーグが書いた「私たちはどこまで資本主義に従うのか」を読んだ。

副題に『市場経済には「第3の柱」が必要である。』



企業と政府だけでは、社会の問題は解決できないというのが本書でのミンツバーグの主張。
なぜか?をさまざまな現象から紐解いていく。それも相当の辛口で。

世の中の流れは、ハーバード大学ビジネススクールのポーター教授が提唱するCSV(共通価値の創造)が主流であるが、ミンツバーグは、企業の利益追求と社会問題の解決が両立する「WinWin」の世界が生まれるなどと思わない方がよいと一刀両断。経済合理性を追求するアングロサクソン型資本主義は限界であり、すでに終焉を迎えつつあると。

そこでミンツバーグが提唱するのが、「第3の柱」の必要性だ。
(第3の柱=社会をベースとする、NGOや社会運動、社会事業などの多元セクター)

政府か企業かの二元論ではなく、多元セクターを加えた三元論で、はじめてバランスのとれた世の中になると。

本書には二元論のバランスのくずれた世の中の象徴として、「広告の悪しき影響」に関する記述がたびたび象徴する。
たとえばこんな感じだ。


「広告攻勢による思考停止」

今度、何かの広告を見た時は、少し頭を冷やして考えてみるとよい。そうすれば、広告の中に、情報を伝えるだけでなく、人間の基本的な価値を貶めたり(たとえば、ダイヤモンドを贈ることを愛の証のように宣伝するなど)、積極的に真っ赤な嘘をついたり(「これで心配は一つもなくなります!」と謳う個人年金の看板など)、重要なことに触れないという形で真っ赤な嘘をついたりする(「環境にやさしい石炭」)という言葉など。これは「いくらかはクリーンな」という意味なのだろうか)ものが極めて多いことに気づくだろう。

中略

たいした問題ではない、と思う人もいるかもしれない。確かに広告なんてろくに見ていない人も多いだろう。しかし、そう片付けるのは早計だ。選挙で対立候補を中傷する広告はきわめて大きな効果を発揮し、有権者の関心を真剣な政治課題からそらしている。この種の広告は一部の有権者の投票行動に影響を及ぼすだけでなく、有権者の政治離れも助長するのだ。これは最悪の政治家にとって最善の効果と言えるかもしれない。

いかがだろうか。ミンツバーグはバランスを崩した資本主義に蔓延する典型的な症状を「広告」に見てとっている。確かに広告の影響の大きさと、影響が大きいゆえに社会までゆがめてしまう怖さはミンツバーグが指摘する通りだ。

さて、リーマンショックに端を発した世界的経済危機は、行き過ぎた資本主義が企業内コミュニティを壊し、社会のバランスを崩したことが本質的な問題だとミンツバーグ。

そしてこう続ける。

いま企業がすべきはコミュニティの再構築であり、リーダーシップとシチズンシップの間のほどよいリーダーシップ、すなわちコミュニティシップを発揮することである。

コミュニティシップ、まさに時代の重要なキーワードなのではないか。

コミュニティシップとは、そのままコミュニティ的価値感と捉えることもできるだろう。内部で強固に閉じるのではなく、世の中に緩やかに開かれ、世の中とつながる、そんな価値観。そこには第3の柱=多元セクターとの積極的な関わりが必要不可欠なのだ。

いずれにしてもミンツバーグの指摘を受けるまでもなく、少なくとも「カリスマ型経営者」の時代はとうに終わっているのは間違いない。

第3の柱=多元セクターの存在が、これからの時代の命運を握っている。

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あなたの「弱み」を売りなさい。川上さんが提唱する戦わない経営の真骨頂。

ストーリーブランディングの川上徹也さんが書いた、『あなたの「弱み」を売りなさい』を読んだ。


 
本書のベースとなっているのは4年前に出版された「星ヶ岡のチンパンジー」。
実はその当時にも読んではいるのだが、正直あまり印象には残っていなかった。

しかしながら今回あらためて読んでみると、これがなかなかよくできた物語なのだ。
しかも物語の後には、新たに自社(自身)のブランディングに使えるワークシートとワークシートの具体例が加わり、ぐっと中身が濃くなった。これで新書価格なんと1,000円!


さて肝心な「星ヶ岡のチンパンジー」の内容であるが、主人公のチンパンジーが若くして自身の店を持ち、経営者として様々な挫折を体験しながら成長していく物語。

当初お客様のために純粋に料理を作っていた気持ちが、大手資本の競合店が登場したことで、いつしか独自性を失い価格競争で相手に勝つことばかりが優先事項になってしまう。そんな経営の末路は…

言わなくてもわかるだろう。弱者が強者に価格で挑んでも勝ち目はない。

それでは弱者は何で顧客の共感を得るべきか?それが本書のテーマである。

物語自体は、最後に本当に大切なことに気づき、再び輝きを取り戻すというハッピーエンド。読む者としては救われた気持ちになれるが、そこに行き着くプロセスは示唆に富んでいて、経営に携わる者にとっては考えさせられるところが多いだろう。

全体を通して川上さんが一貫して提唱している「ストーリーブランディング」のまさに真髄ともいえる内容だ。

ブランドをつくるのには長い長い時間がかかるが、ブランドを失うことはまさに一瞬。

だからこそ全力で良い商品・良いサービスを提供し続けなければならない。その重要さが痛いほど伝わってくる。

「物を売るバカ」「1行バカ売れ」とベストセラー連発の川上さんのまたまた真骨頂といえる1冊。
ブランディングを学ぶ人、自社のブランディングをもう一度基礎から考え直したい人にぜひ読んでもらいたい。

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伝説の経営者「新将命」が教える、経営の原理原則。

日本コカ・コーラやジョンソン・エンド・ジョンソンの日本法人などで社長を務めた新将命さんが書いた「経営者の心得」を読んだ。



新さんの普遍のテーマとなっているのは、優れた経営者の原理原則。

日本企業でも外国の企業でも、経営の根本の部分は共通なものがあると新さんは言う。

本書でもその考え方が全編に反映され、骨太の経営原理原則論が展開される。

たとえば、「新たに経営者となった時、まずやるべきことが4つある」

4つとは、

1.企業理念の作成
2.目標の設定
3.戦略の立案
4.後継者の育成

中でも、新さんが重視するのが、企業理念の存在だ。

よくわかかっていない人からは「企業理念なんかより、会社が儲かる方法を教えてくれ」と言われるそうだが、それに対して「経営者の責務とは何か?」と問い返す。

すなわち、経営者は、勝ち残る企業をつくらなければならないというのが、新さんの信条。

仮に短期で儲かる方法を知り利益を上げられたとしても、勝ち残るのは難しい。お金儲けだけに注力した企業は、例外なく勝ち残っていないからだ。

逆説的に言えば、勝ち残る企業ほど、企業理念を大切にし、企業理念の実践を意識しているという証なのではないだろうか。

新さんは企業理念をつくるメリットを5つ挙げている。

(1)社内の心をひとつにする(求心力)
(2)社員の誇りとなる
(3)ステークホルダーから信頼される
(4)優れた人材が採用される
(5)業績が上がる

つまり、企業理念を持つことで、社員の結束が高まり、結果として業績を招くことになる。新さんに言わせれば、すべてのスタートはそこから始まるのだ。

私個人の感想では、特に最近では世の中からどのように見られているか、企業の社会的価値がますます重要になってきているように思う。
その意識が経営の中にあるかどうか、あるとしてもどの程度あるのか。それによって、企業の浮沈が決まってしまう、そう言っても過言ではないのではないか。

社会という視点、顧客という視点。人口が減少し、どの市場でもパイが縮小していく今のような時代は、まさに新さんが言うように原理原則に立ち返る時である、企業も、個人も。

「赤ちゃんにきびしい国で、赤ちゃんが増えるはずがない。」読後録

もと広告会社、I&Sのコピーライター、現在はフリーランスライターの境治氏が書いた「赤ちゃんにきびしい国で、赤ちゃんが増えるはずがない。」を読んだ。



現在の子育て環境が、いかに厳しいか。そして、その厳しさの原因はどこにあるのか。

そんなテーマで書かれた境氏の初出版本。しかも出版社の三輪舎自体が初の出版だという。
しかし、これが実におもしろかった。そして私自身、あらためて「子育て」という人生の一大作業について、あまりの無知さを知らされることになった。

本書が出版されるきっかけとなったのは、氏が書いたハフィントンポスト日本版での記事が17万いいね!を獲得したこと。そのタイトルが「赤ちゃんにきびしい国で、赤ちゃんが増えるはずがない。」

境氏はこの反響をきっかけに、本格的に「子育て」世代の現実に対して取材を開始する。

そこで見えてきたこと。

簡単にいうと、核家族化により会社というムラと子育てというムラが生み出され、かつてはそれぞれのコミュニティに男性、女性が居座りバランスが保たれていたが、女性の社会進出が進んだことにより、やがて会社ムラに入り込んだ女性が子どもを産むと、それぞれのムラで摩擦が生じることになり、子どもを持った女性はどちらのムラでもいづらくなる。その現実がわかる以上、積極的に子どもを持とうという夢を描けない…出産率が一向に上がっていかない大きな原因のひとつだ。

そしてその現実の背景にあるのが、いまだ会社ムラ中心の世の中であること。政府が出産率向上を掲げても、企業が変わらなければ、出産率は永遠に上がっていかない。夫の子育てへの理解と協力が必要不可欠であるからだ。これが本書での鏡氏の結論といってもいい。この鏡氏の結論に私自身も全面的に賛同する。大手中心に確かに夫の子育てへの参加は環境が整いつつある。しかし、業績が好調な大企業が多い今は良いものの、ひとたび業績が悪化したとしたなら、どうなることか…。
根本的な解決にそろそろ国自体が価値観を変えなければいけない時なのではないだろうか。

ここでは書かなかったが、本書では、そんな世の中にあって新たな取り組みを始めている人たちも多く紹介されていて、着実に世の中が変わり始めている予感もひしひしと伝わってくる。

このスピードがさらに加速するのか落ちるのか、そのためには一人でも多くの人に現実を知ってもらうことが必要不可欠だ。そういう意味では本書が出版された意義は大きい。


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