アドマン(元)のブログ「広告会社~バーチャルとリアルの狭間で」

名古屋の広告会社に働いていた元アドマンのブログ。広告とインターネットに携わる男が、時代の転換期で日々感じること、気づくこと、体験したこと、また、読んだ本や見た映画の感想などを思いのままに書き綴ります。

土から耕し、根っこから変えていく。

アートディレクター森本千絵さんの書いた「アイデアが生まれる、一歩手前のだいじな話」を読んだ。



森本さんといえば、オンワード組曲などブランドのアートディレクションで広告業界では知らない人はいない存在。そして企業の広告担当者から見れば、一度はお願いしたい、ある意味憧れの存在でもある。

ミスターチルドレンのアルバムジャケットの一連のアートワークを手がけた人といえば、あーあの人と手を打つ人も多いのではないか。

彼女のアートディレクションの特徴は、誰にも作れない独特の世界観にある。目にした時、どこか懐かしい、心の襞をそっと撫でられるような、かつて味わったことのないような感覚に包まれる。

その作風や感覚、一体どんな育ち方、考え方をすれば出来上がるのか?

かねてより気になっていたそのもやもやが、本書を読んで一気に晴れた。

彼女の才能は、天賦のものはもちろん、祖父からの幼少期の影響も大きいが、本書から伝わる私の印象は「努力の人」。

プロフェッショナルになるための条件としてよく言われる10,000時間の法則というものがあるが、彼女はまさに1日24時間を仕事のために捧げている、ここまでやれば、あとは一流になるしかない(笑)のだと納得させられる。

本書で明らかにされているのは、彼女のクリエイティブに対する方法論。

しかしそれは決して手順や段取りというものではなく、心の有り様や意識の持ち方、従ってコミュニケーションそのものに対する価値観といったほうが適当かもしれない。

たとえば彼女、大切なことはいつも色や歌に変えて伝える。その方が人の心に伝わるのだそうだ。

特にスタッフとの共通言語は「音楽」で作るとのこと。

たとえばキャンペーンを考えるときは、まずその「感じ」を音楽に置き換え、イメージに合った曲を選び1枚のCDにするのだそうだ。そしてそれを繰り返し聴き表現を固めていく。

逆に、本の装丁や写真集などでは作家に好きな音楽をCDに焼いてもらい、それを聴きながらイメージを作っていくと。

なるほど、出来上がった仕事を見ると、確かに鮮やかな色が目に焼きつき、そしてどこからか音楽が聞こえてくるようだ。

さて本書で彼女のいう〝だいじな話〟、最も心に刺さったのは第4章、本物の追求の中の、『土の中に未来がある』という言葉。

土をいかに耕して、どれだけしっかり根っこを広げて張れるか。

広告とは商品の魅力を伝える大切な手段であるが、もっと大切なのは、その商品を作る会社の姿勢そのものであり、関わる人たちのこだわりであると。ある意味広告の限界を誰より知っている人。そこまで徹底するからこそ、彼女の仕事が人の心を動かすことができるのではないか。

当たり前のことだが、本書を読んでも彼女のようなアートディレクターになれるわけではないし、地方のアドマンには、応用できることも少ないだろう。

けれどもあえて一読をおすすめしたい。なぜなら自身と一流との違いを知ることで、自分の至らなさが実感としてわかるからだ。賢明な人は学ぶことを知るだろう、それは決して無駄ではない。

それにしても森本千絵、凄い人である。


食べることは、生きること。未来へつなぐ食のバトン。

大林 千茱萸(ちぐみ)氏が書いた「未来へつなぐ食のバトン」を読んだ。



子供たちの給食を地元産の有機野菜でまかないたい。そんな想いを実現するために、なんと土づくりから始めたという大分県臼杵市の取り組み。

単に植えて育てるというわけにはいかない。土そのものを堆肥作りから考え、時間を掛けて、実際に形にしていった。
子供の将来を担う「食」に賭ける本気度が伝わってくる。

そんな取組みを、前町長から直々に依頼を受け、大林氏が記録したドキュメンタリー映画が「100年ごはん」だ。

本書はそのプロセスで大林氏が学んだこと、出会った人、そして完成後の上映会でのさまざまな体験を綴ったもの。

少し余談になるが、映画、そして大林という名字。それだけでピンとくる人もいるだろう。そう、大林氏は、かの大監督、大林宣彦氏のお嬢さんだ。

映画を観ていないので何ともいえないが、幼い頃より父親の背中を見て育ってきた、おそらく感性は父親譲りなのだろうと、本書を読む限り想像に難くない。

さて、映画もそうなのだろうが、本書の最大の特長は、有機野菜に知識が少ない彼女が、

・そもそも「有機野菜」とは?
・完熟堆肥はどうやってつくられるのか?
・なぜ野菜にとって土は大切なのか?

読者が同様に抱くであろう素朴な疑問をひとつひとつ解決していく、答え探しのプロセスにある。

好奇心旺盛な彼女、行動力もひとしおで、ひとつの行動がまた次の行動につながっていく。
そんな「つながり」の連鎖、彼女の人柄の良さを本書の随所で垣間見ることができる。

そんな彼女の彼女らしさが、おそらく映画でも功を奏し、良質さを生んでいるのではないだろうか。

「つながり」の連鎖を意識させられるエピソードは、完成後の上映会の様子にも見て取れる。

このドキュメンタリー映画のもうひとつの特長、それはメジャーな興行ではなく、自主上映会を中心にしていること。
そして上映会の主催者はクチコミ、紹介をメインにしていることだ。

映画を見て、私も上映会を開催してみたい、そんな想いのつながりに、読んでいて知らず知らずのうちに胸が熱くなり幸せな想いに浸ることができた。

本書を読んで映画を観てみたくなった。それは私だけではないだろう。

本×映画。ノベライズだけでない新しい可能性のかけらをここに観たような気がする。

そしていささか道が逸れてしまったが、本書の本題である「未来の子供たちにつなぐ食のバトン」、食と土の関わりは本当に大切である。土はすべてのはじまりり。あらためてそう気付かされた。

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「里山十帖」の、常識を覆す成功を生んだ『デザイン的思考』とは。

ライフスタイル雑誌「自遊人」を発行する株式会社自遊人の代表取締役、岩佐十良氏が書いた「里山を創生するデザイン的思考」を読んだ。



自遊人は、雑誌社でありながら、食品のオンライン販売を手掛けている会社。共通点ははどちらも「メディア」であることと、岩佐氏はいう。そんな岩佐氏が新たに取り組んだのが旅館「里山十帖」の経営だ。

里山十帖、場所は新潟県南魚沼市、しかも大沢山温泉という鄙びたマイナーな温泉地。

そもそも、この地で倒産寸前にあった温泉旅館を買い取り、リニューアルさせようと計画した時、過去の例からみて100%成功する理由が見当たらないとして、多くの銀行から融資を断られたというおまけつきだ。

それほどの不利な条件が揃いながら、しかし結果は…。というと、なんと開業からわずか3か月で、客室稼働率90%という超人気旅館に!

何がこの常識破りの成功を生んだのか?その秘訣こそ、岩佐氏自身の「デザイン的思考」にある。

岩佐氏の「デザイン的思考」とは何なのだろう。

それについて岩佐氏は「ひとことで表すなら、『現状の閉塞感を打破するための、従来とは異なる思考アプローチ法』という。
そして、そのアプローチのおいて、なにより重要になるのが「データを見ない」ことであると。

自ら体験したことだけを信じること。さらには、自分自身の中にいくつもの価値観を存在させて、多重人格的に体験すること。そうした行為を重ね、どのようなタイプの人から「共感」を得られるのか、自分の中で複数の検証を行うのだそうだ。おそるべき多重人格性といえるのかもしれない(笑)

多くの体験をもとに、いくつもの人格で得た『共感』を、イマジネーションとクリエーションをフル稼働させ統合させる。その結果生まれたのが里山十帖なのだ。

なるほどと思いつつも、そんな能力を発揮できるのはほんの一握りの人間ではないか。そんな疑念を抱きつつ、岩佐氏の創造力&想像力の高さには、読み進めるほどにただただ驚かされるばかりだった。

さてそんな岩佐氏、本書で「デザイン的思考」が生んだ成功法則について、具体的に10のポイントをあげて詳しく紹介しているが、見出しだけざっと記してみた。

1.モノよりコトの価値共有を目指せ
2.圧倒的な強みの明確化
3.特定の客層に深くコミットせよ
4.意外な組合せがイノベーションを起こす
5.真に「物語がある商品」を生み出せ
6.地域への創造的貢献を目指せ
7.見えないコストとリスクに敏感になれ
8.人材採用のキーワードも「共感」
9.マーケットを創るという発想
10.「若い力」と「外部の力」を呼び込む

モノよりコト、集中にコミット、物語、創造的貢献、イノベーション、共感、外部の力…まさに今と言う時代のキーワードがめじろおしで、デザイン的思考がいかに時代にふさわしい考え方であるかと納得させられる。

短期的利益の追求を追求するあまり、金太郎飴的な商品やサービスばかりになってしまった昨今。

しかしながら真のヒット商品を見てみると、必ず独創性やイノベーションとも言える革新性がそこには存在している。
まさに常識の反対側に、ヒットの秘密が隠されているのだ。

あえて常識的に考えないこと。そんな既成概念に捉われない独自性こそ、今の企業にいちばん欠けているところではないだろうか。本書で「里山十帖」の成功物語を読んで、あらためてその思いを強く抱いた。

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伝わらない時代の伝わるプランニング。

コミュニケーションディレクター佐藤尚之氏が書いた「明日のプランニング」を読んだ。



「明日の広告」、「明日のコミュニケーション」に続く、明日シリーズの最新刊。

佐藤氏がこのシリーズで一貫して前提としているのが、世の中に溢れるほとんどの情報がスルーされているという事実。だから伝わらない前提で、コミュニケーションを設計する必要があるということだ。

伝わる前提と伝わらない前提では、それこそプランニングの考え方が180度変わってしまう。

かつて広告業界にいた私の経験からも、この違いをわかってプランニングできている人は、意外かも知れないが、ほぼいないに等しかった。そんな記憶が蘇る。

その大きな理由のひとつが、過去の成功体験がじゃまをするから。成功体験が大きければ大きいほど現実を見失ってしまい誤ったプランを立ててしまう、皮肉な話だ。

さて、ネット社会と一括りに片付けてしまいがちだが、そもそも世の中は情報環境によって二極化していると佐藤氏。

佐藤氏の言葉を借りれば、情報“砂の一粒”時代の生活者と情報“砂の一粒”時代以前の生活者。

2005年にコミュニケーションの大転換が起こり、情報の数がまだまだ少なくマスメディア中心のマスマーケティングが成り立った時代から、マンメディア中心のマンマーケティングへの流れに一気に変わった。

情報“砂一粒”とは、一気に情報量が増え、地球上の砂粒の数と同じくらいになった今の時代を象徴した佐藤氏の造語だ。なんとも大胆な括り方であるが、言い得て妙である。

この二極化で到達させたいターゲット像を明確にできれば、マスマーケティングがふさわしいか、それともマンマーケティングか、自ずとコミュニケーションの設計図が浮かび上がってくるということだ。

従来型のマスマーケティングはさておき、今の時代の重要なポイントであるマンマーケティングについて読み進めよう。本書後半で佐藤氏は「ファンベースマーケティング」と言葉を変え、自論を推し進める。

一言でいうとファンベースマーケティングとは、自分の身近にいる「最強メディアである友人知人を介して」行うマーケティング手法。

お店でいえば「核」となるコアなファンを大切にすることで、彼らが情報の伝道師の役割を果たしてくれるのだ。

佐藤氏の考えでは、ファンは100人いれば良いと。このファン100人にリーチできれば、その周りに130人の友達がいて、合計13,000人に到達可能だとする。

ファンをとことん大切にするファンベースマーケティング。

マスメディアで一気に数百万人に到達!
という快感に慣れすぎたマス頭では、考えることすらうんざりだろう。

だからこそ価値観を切り替えられた人には、一歩も二歩も前に行けるチャンスの時代でもある。

それにしても佐藤氏の話の運び方はコンセプト、キーワードが明確で、知らず知らずグイグイ引き込まれていく。上手いの一言しか見つからない。

タイトルは明日のプランニングだが、内容は今すぐ実践したい、いや、今すぐ実践できる、まさに「今日のプランニング」である。

3000億円の事業創造、基点は社会課題の解決。

ドリームインキュベーターの三宅孝之氏と島崎崇氏が書いた「300億円の事業を生み出すビジネスプロデュース戦略」を読んだ。



ドリームインキュベーターは、創業以来15年に渡り、大掛かりな事業創造である「ビジネスプロデュース」を多数手がけてきた会社。

そのドリームインキュベーターの「ビジネスプロデュース」の定義は、ズバリ3,000億円の事業創造だそうだ。
事業といっても自分が関わってきた事業とは桁が違うだけに正直想像がつかない。ここまでの規模になると、個人のアイデアレベルでは実現不可能な領域である。

著者いわく、それを実現するためには「社会的課題への着目」と「業界の枠組みを超えた発想」が不可欠だと。

本書ではドリームインキュベーターがそんな事業創造を多数手掛けてきた中で見えてきた方法論が紹介されている。

第1章は、日本企業が今置かれている時代背景を分析。
第2章は実際にプロデュースをした事例の紹介。
第3章は、ビジネスプロデュースの進め方、注意点を5つのステップに分けて解説。
第4章は、より自分事として理解してもらうためにビジネスプロデュースの架空ストーリーとして疑似体験。
最後、第5章ではビジネスプロデューサーになるための要諦と活躍のための要件のまとめ。

以上であるが、私が特に興味を覚えたのは、本書において何度も繰り返し登場する「つながる」ことの重要性。

「つながる」といえば、ITの活用が頭に浮かぶが、本書でいう「つながり」とは単にそれだけでなく、自社の壁を越えた競合との連携や、場合によっては業界の垣根を越えた、まったくの異業種との連携を指す。

結局のところ、日本企業特有の自前主義や過去のしがらみに縛られた業界意識を払拭できなければ、規模の大きい事業創造などは実現できないということだろう。

それは個人にもあてはまる。これからのビジネスマンにとっても内向きで常識的な発想は淘汰され、その価値観を変え積極的に未知なる世界とつながっていかない限り、企業の中で生き残っていくことはより難しくなるのではないか。

3000億円の事業創造。
それ自体はほとんどの人にとって蚊帳の外の話かもそれないが、とはいえビジネスプロデュースの視点は、すべてのビジネスマンに求められる能力であることは間違いない。

そういう意味では、ビジネスプロデュースを体系的に、しかも俯瞰的に学ぶことのできる稀有な1冊の登場と言える。


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